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どんなスキルも獲得可能?強化を使って楽しく学び成長できる仕組みを作る【強化実践編】

· 20 min read
Tomohiro Hiratsuka

今回は強化の実践編です。前回の準備編では、強化の概要および準備に関して紹介しました。

はじめに

今回は強化の実践編です。前回の準備編では、強化の概要および準備に関して紹介しました。

今回は準備編で紹介した、正の強化、負の強化、トークンシステムに関して、それぞれの実践方法をご紹介します。

チェックリスト

  • 目標行動が定義されている
  • ベースライン測定が完了している
  • 目標設定がされている
  • 達成基準が設定されている
  • 使用する強化方法が選択されている
  • 使用する強化子が選択されている

正の強化

Step1つど強化する

正の強化は、目標行動が発生した直後に強化子を提供します。

**強化を開始した直後は、目標行動が発生した直後につど強化するようにします。**これは、対象の行動を増加させるという本来の目的に加えて、対象の行動を実行すると強化子を獲得する事ができるという仕組みを児童にも理解してもらう為です。

即時につど強化をしても、児童が仕組みを理解出来ていないというようなケースにおいては、強化子を与える際にどんな行動をしたから、強化子がもらえるのか説明してあげるとより理解してもらいやすくなります。

例 「宿題終わったから、好きな本読んでいいよ」

また、つど強化していく上で、強化子がモチベーションとして機能するためには、対象となる行動やスキルを使用する時以外には強化子を獲得できないようにしておくことが必要です。

というのは、目標行動以外の方法でも強化子を獲得できてしまうと、目標行動を使用する割合が減ってしまう可能性がある為です。

チェックリスト

  • 目標行動の直後につど強化子を提供する
  • 強化の仕組みを児童に理解してもらう

Step2強化子の種類を変更する

強化を継続していく中で、可能であれば強化子をより自然に得られるものに変更していきます。

これは、児童の学習機会の増加と、実生活で使えるスキルとして目標行動を身につけていく為です。

例を考えると分かり易いと思います。

強化の機会が限定される例 「おはようございます」と挨拶をした際にシールを提供する 強化の機会が豊富な例 「おはようございます」と挨拶をした際に、「おはよう」と挨拶を返す

前者の例では、シールという強化子が提供された場合にのみ強化されますが、後者では挨拶が返されれば強化されます。日常生活でよく目にするのは後者です。このように目標に対する自然な応答が強化子と機能するのであれば、療育の中でも使用する強化子をそのように変更したり、複数の強化子を組み合わせて使用する中で、より自然な強化子を使用する割合を増加させます。

基本的な強化子変更の方向性としては、食事睡眠といった生理的欲求に紐づく強化子や児童がこれまで学習した強化子(シールがもらえるなど)から、社会的強化子(先生から褒められる、注目される)へと変更していきます。

*ただし社会的強化子がまだ有効でない場合などは、無理に変更する必要はありません。

チェックリスト

  • 可能であれば社会的強化子で強化する割合を増やす

Step3飽きない工夫をする

強化子が高頻度で使用されると、どれだけその強化子が特別であっても飽きが生じてしまいます。

飽きが生じるとモチベーションとしての効果が弱まり動機付けが難しくなってしまうため、飽きを防ぐための工夫が必要です。

飽きを防ぐ例 ・それぞれの目標行動やスキルに別々の強化子を用いる ・目標行動やスキルを教える際に、長時間ではなく、短いセッションをいくつかに分けて教える ・他に何も強化子となるものが特定されていないような状況以外で、食べ物を強化子として用いない ・生理的欲求に紐づく強化子から、児童が学習した強化子に可能な限り早く移行する ・もし飽きが生じたら、別の強化子に変更する

チェックリスト

  • 強化子の機能を維持するため飽きを防ぐ工夫をする

Step4強化を弱める

強化を開始した直後では、児童の行動と強化子の関係をよく理解してもらうために継続的にその都度強化を与えていましたが、ある程度目標に近づいてきたら(目標基準の8割程度)、今度は逆にその強化を少しづつ弱めていく作業が必要です。

これは、目標行動を使用するシチュエーションをより実生活に近づけて行くためです。

**療育以外のシチュエーションでは目標行動をしたときにいつもすぐに強化子が提供されるというわけではありません。**その為、強化の仕上げとして強化を弱めるというステップが必要となります。

強化を弱めていくには主に以下の方法があります。

強化を弱める方法

https://afirm.fpg.unc.edu/node/296

いずれの方法においても、目標行動の発生に加えて回数や割合などの条件をつけた上で強化することで、従来の即時・つど強化から弱めていきます。

最終的に限りなく実生活に近い状態(強化が弱まった状態)でも、目標基準に達するようになれば、正の強化は完了です。

チェックリスト

  • 強化に条件を加え、弱める

トークンシステム

Step1仕組みの説明

トークンシステムを使用する場合にはまず最初に児童にその仕組みを理解してもらう必要があります。

ごくごく簡単な言葉で説明するか、またはどんな行動が求められているかやって見せることで理解してもらいます。また対象とする行動が発生するたびにトークンがもらえることも同じく説明します。

トークンを溜めた時に獲得可能な強化子の一覧に関しても同様に説明します。説明方法としてはイラストとトークン数をまとめて提示するなど視覚的に伝えると理解されやすいです。

チェックリスト

  • トークンシステムの仕組みを説明する

Step2つどトークンを提供する

トークンシステムにおいても最初にそのシステムを用いる際にはつどトークンを提供して、自分の行動とトークンが結びついていることを理解してもらいます。

トークンの提供のみで自分の行動をトークンが紐づいていることを理解し難い場合には、トークンを提供する際に同時に、口頭で簡単な説明を加えながら提供することで理解を促進します。

チェックリスト

  • トークンをつど提供する

Step3交換する強化子選ぶ

トークンシステムでは、トークンが溜まると強化子と交換する事ができます。

強化子を交換するにあたり、強化子を選択する時間を区切って設ける必要があります。

またトークンを稼ぐのが上手になって色々な強化子に一気にアクセスできてしまうような状況になりつつある時には、トークンの価格を少し上げたり(トークンを獲得できる基準を上げる)、交換出来る強化子も変更するなどの工夫が有効です。

さらに、トークンの獲得状況等を鑑みて、トークンシステムを実施している最中に交換可能な強化子を変更することもモチベーションを維持する上で有効です。

チェックリスト

  • トークンと強化子を交換する

Step4強化を弱める

トークンシステムでも正の強化と同様に段階に応じて強化を弱めます。トークンシステムの場合の弱め方としては、つどトークンを与える形から、3回に一回に頻度を変更していくことや、トークンの代わりに社会的強化子(笑顔、注目、褒めるetc)を用いるというやり方が有効です。

チェックリスト

  • トークンを提供する頻度を下げるなどして強化を弱める

負の強化

目標行動を使用するように指示する

負の強化は、結果が取り除かれることで強化を行います。その為まずは、どのタイミングで目標行動を使用する必要があるか児童に理解してもらう必要があります。

まずは負の強化子(児童の嫌いな活動などが除かれること)が提供されている時に、児童が対象の行動を行うように合図を出します。

この合図は、イラストでもテキストでもまたは口頭での指示でも構いません。結果を取り除くため目標行動を行わない場合には、負の強化子を提供しないということです。

目標行動を行わない場合や、問題行動が発生してしまう場合には、その問題行動の機能(回避等)を満たさないようにし、また指示を繰り返し伝える必要があります。

チェックリスト

  • 目標行動を使用するように合図をする

Step2負の強化子を提供する

合図や指示に応じて行動した場合には直ちに負の強化子を取り除きます。

例 負の強化子 課題に取り組まなくて良いこと 目標行動「休憩したいです」と言う 課題取り組み中に「休憩したいです」と発言すれば、即座に課題を中止する(負の強化子) ただし大きな声を出したり癇癪を起こしたりする際には、課題は中止しない(負の強化子を提供しない)

チェックリスト

  • 負の強化子を提供する

Step3正の強化への移行

負の強化は原則として、正の強化がどうしても使用できない有効でない場合や、正の強化の補助として用いられる方法です。

そのため負の強化を用いて、対象とする行動やスキルを使用し始めたらすぐに正の強化に移行を開始します。

チェックリスト

  • 負の強化で目標行動が使用されるか確認する
  • 正の強化に移行する

モニタリング

いずれの強化の方法をとる場合でも、モニタリングの方法は同様です。準備段階でベースライン測定に使用したデータ収集方法と同じ方法でモニタリングデータをを収集し、行動の頻度や時間の増減を調べ期待通りの変化が生じているかチェックします。

チェックリスト

  • モニタリングデータを計測する

強化子の調整

強化を実施してからデータ上で目標行動が増加していない場合などには、強化子の調整が必要です。よくある問題とその対処法は下記になります。

対象行動に関して進歩があるが、強化子への興味を失ってきている 強化子の再選定を行い、有効そうな強化子を特定しそれを用いる

強化子がもらえる時間まで対象行動を継続できない 対象行動の達成基準が高すぎる可能性があるため、まずは児童が確実に強化子を得られる程度の基準から始めそこから徐々に時間を長くする。

最初はトークンシステムに非常に意欲的だったが、もはやトークンを得ることもそのあとの強化しにも興味がなく、対象行動を行わない。 強化子を得るために必要なトークンが高すぎて、児童が強化子を得るためにトークンを稼ぐということを諦めている可能性があるため必要なトークン量の調整を行う。

選択した負の強化子に反応しない 児童にとって取り除くほどではない負の強化子である場合があるため、他の負の強化子を試すか、正の強化に切り替える。

チェックリスト

  • 必要に応じて強化子を変更する

まとめ

今回の記事では強化の具体的な進め方に関してご紹介しました。

正の強化とトークンシステムは始めはその強化と行動が結びついていることを理解してもらうためにつど強化を行い、行動頻度が上がるにつれて、社会的強化子への移行や、時間や頻度をずらして少しづつ薄めていくことが必要です。

一方で負の強化はそもそも単体で使用することがあまり推奨されてはいません。というのは反応を無視するなどかなりリスキーな対処方法を含んでいるためです。基本的には正の強化で強化を行うという形で設計を進めていくと低リスクで介入を進めて行く事ができます。

強化は上手に使うと、教える側も児童も楽しく療育を進める事ができる方法なので、ぜひ実践してみてください。