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ADHDとASDの持続的注意力に関する脳波研究

· 約25分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)に関連する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、ASD児の顔認識における視線パターンの違いや、脳内ネットワークと社会性の関連、ADHDとASDの持続的注意力に関する脳波研究、聴覚処理と実行機能が問題行動に与える影響、ソーシャル・ジェットラグとASDコア症状の関係、ルテオリンによるASDモデル動物の多臓器保護効果、社会的孤立に対するASDモデルマウスの脳機能変化、さらにADHD児の腸内環境と治療可能性に関するナラティブレビューが取り上げられています。それぞれの研究が、行動・脳機能・生理・生活習慣といった多角的な側面から発達障害を深く理解し、支援や治療法の進展に貢献する重要な知見を提供しています。

学術研究関連アップデート

Alterations in looking at face-pareidolia images in autism

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある若者が「顔に見える画像(顔パレイドリア画像)」を見るときの視線の違いについて調べたものです。


🔍 背景と目的

  • 顔を認識する能力(フェイスチューニング)は、人との社会的なやり取りに欠かせない重要なスキルです。
  • ASDではこの能力が低いことが知られていますが、その原因やメカニズムはよくわかっていません
  • 本研究では、**顔に見えるけれど本物ではない画像(Arcimboldo風のFace-n-Food画像)**を使って、ASDの若者と定型発達(TD)の若者の視線の動きを比較しました。

🧪 方法

  • 参加者:高機能ASDの若者と、年齢・性別を一致させたTDの若者
  • 使用したツール:視線追跡(アイ・トラッキング)
  • 分析対象の領域:
    • 顔全体
    • 顔の補助領域(目や口以外の顔パーツ)
    • 非顔領域(顔以外の画面部分)

📊 主な結果

  • ASDの若者は、顔を顔として認識する回数が有意に少なかった
  • 視線の分布:
    • ASD群は、口、顔の補助領域、顔以外の領域を見る頻度が高かった。
    • TD群は、主に顔全体や目に視線を集中させていた。
  • この結果は、**「ASDでは目を見るのを避ける傾向(アイアボイダンス仮説)」**を支持する。
    • 目は感情的な情報源であり、それがASDの人にとって不快さやストレスを引き起こすため、目を見ることを避ける可能性がある。

✅ 結論と意義

  • ASDにおける顔認識の困難は、視線の使い方(特に目を避ける傾向)によって部分的に説明できる
  • 社会的コミュニケーションの支援には、目への負担を軽減しながら視線の使い方を自然に促す工夫が役立つかもしれない。

この研究は、「顔を見る」ことのプロセスにおける微妙な違いが、ASDの社会的な困難の理解と支援方法に直結する可能性を示しており、今後の支援やトレーニング設計に重要な示唆を与えています。

Functional connectivity between the visual and salience networks and autistic social features at school-age - Journal of Neurodevelopmental Disorders

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもにおける「脳内ネットワークのつながり」と「社会性の特性」との関係を調べたものです。特に、視覚ネットワークと**サリエンスネットワーク(重要な刺激に注意を向ける脳の仕組み)**の機能的つながり(機能的結合)が、社会的な振る舞いにどのように関連しているかに注目しました。


🔍 研究の方法

  • 対象:8〜12歳の子ども97人(うち15人がASD診断済み、63人がASD家族歴あり)
  • データ:
    • 安静時の脳活動(fcMRI)
    • 社会性、反復行動、不安、注意力、運動協調性、認知力などの行動評価
  • 手法:ネットワーク間の結合と各行動指標との関係を、データ駆動型で解析

📊 主な結果

  • 視覚ネットワークとサリエンスネットワークの結合が強いほど、社会性の困難(社会的影響スコア)が高かった
  • 他の行動指標(反復行動、不安など)とは強い関連はみられなかったが、反復行動との弱い関連傾向は観察された。
  • この関係は、ASD診断の有無にかかわらず、家族歴を持つ子どもにも見られた

✅ 結論と意義

  • 視覚情報の処理重要刺激への注意の向け方が、ASDにおける社会的な特性の違いに大きく関わっている可能性が示唆された。
  • 乳児期からの視覚システムの役割に関する過去の知見とも一致しており、ASDにおける早期脳発達の理解をさらに深める成果となった。

この研究は、**「社会性の違いは脳内ネットワークのつながり方に現れているかもしれない」**という考え方を支持するものであり、ASDの早期発見や個別化支援に向けた新たな手がかりを提供しています。

Electrophysiological Abnormalities Associated with Sustained Attention in Children with Attention Deficit Hyperactivity Disorder and Autism Spectrum Disorder

この研究は、注意欠如・多動症(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちが持つ「持続的注意力」の脳活動の違いを、脳波(EEG)を使って詳しく調べたものです。


🔍 研究の概要

  • 対象:
    • ADHDの子ども30人
    • ASDの子ども23人
    • 定型発達(TD)の子ども31人
  • 方法:
    • 持続的注意力を測るTOVA(Test of Variables of Attention)課題を実施中に脳波を記録
    • *ERP(事象関連電位:P1, N2, P3)**や、**周波数帯ごとの脳活動変化(ERD/ERS)**を比較
  • 主に「注意の持続」と「抑制コントロール」(不要な反応を抑える力)を検討

📊 主な結果

  • ADHDとASDの両方に共通する特徴:
    • P1振幅(初期視覚処理を表す脳波)が低下 → 初期段階での刺激処理が弱い
    • 前頭部のシータ波増加(theta ERS)が低下 → 抑制コントロールの課題で脳の働きが低下
  • ASDに特有の特徴:
    • N2振幅(抑制に関わる脳波)がさらに低下
    • P3振幅(判断・注意に関わる脳波)が低下
    • アルファ帯の脳波低下(alpha ERD)が弱い
  • ADHDに特有の特徴:
    • シータ波の変化(theta ERS)のさらなる低下
  • また、N2振幅やシータ波活動は、反応速度と関連していた(つまり脳活動が弱いと反応が遅くなる傾向)

✅ 結論と意義

  • ADHDとASDの子どもは共に、初期の視覚刺激処理と抑制的注意配分に問題を抱えている
  • ASDはさらに、トップダウン制御(高次の認知制御)と抑制機能にも大きな課題を抱える。
  • ADHDは主に、注意の割り振りや調整の問題が中心。
  • これらの違いは、診断の精度向上や個別化された支援方法の開発に役立つ可能性がある。

この研究は、ADHDとASDに共通する点・異なる点を脳活動レベルで明らかにした貴重な成果であり、今後の診断や介入法に新しい視点を提供しています。

Executive function as a mediator in the relationship between central auditory processing and problem behaviors in preschool children with ADHD

この研究は、ADHDを持つ幼児において、「聴覚情報の処理能力」と「問題行動」の関係を、実行機能(思考や行動をコントロールする力)がどう仲介しているかを調べたものです。


🔍 研究の概要

  • 対象:ADHDを持つ幼児120人
  • 方法:
    • 中央聴覚処理能力(音を聞き分け、理解する力)

    • 実行機能(注意の切り替え、自己コントロール、記憶操作など)

    • 問題行動(PBs)(例:衝動的行動、規則違反、攻撃的態度など)

      を測定し、**構造方程式モデリング(SEM)**によって、これらの関係を統計的に分析


📊 主な結果

  • 中央聴覚処理の問題は、実行機能を通じて問題行動に影響を与えることが示された
  • 実行機能の仲介効果(間接効果)は、全体の影響の30%を占めた
  • つまり、
    • 聴覚処理の問題が直接、問題行動を引き起こすだけでなく
    • 聴覚処理の問題 → 実行機能の低下 → 問題行動という間接経路も存在する

✅ 結論と意義

  • 幼児期のADHD支援では、単に行動を直そうとするだけでなく、聴覚処理や実行機能の強化に取り組むことが重要である
  • 早期から音情報の処理力や自己制御能力を育む支援が、問題行動の予防・改善につながる可能性がある

この研究は、ADHDの幼児における行動問題の背景に、聴覚処理と実行機能という隠れたメカニズムがあることを明らかにした重要な知見を提供しています。

Frontiers | Social jet lag is associated with core symptoms in 2-3-year-old children with autism spectrum disorders

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の幼児(2〜7歳)における「ソーシャル・ジェットラグ(SJL:社会的時差ボケ)」と、ASDのコア症状との関連を初めて明らかにしたものです。


🔍 研究の背景と目的

  • *ソーシャル・ジェットラグ(SJL)**とは、平日と週末で寝る時間・起きる時間がズレることによる体内時計の乱れを指します。
  • これが子どもの認知、行動、感情に悪影響を与える可能性は知られていましたが、ASDの子どもにおける影響はこれまで詳しく調べられていませんでした。
  • 本研究は、SJLがASDのコア症状(対人関係・行動の問題)にどう関係するかを探りました。

🛌 実施内容

  • 対象:ASDと診断された2〜7歳の子ども
  • 方法:
    • 睡眠習慣を「子どもの睡眠習慣質問票(CSHQ)」で評価
    • SJL=平日と週末の「睡眠の中心時間」の差で計算
    • ASDのコア症状を「CARS」「SRS」「ABC」で評価
    • 発達レベルを「ゲゼル発達診断」で測定

📊 主な結果

  • ASD児の約半数に睡眠問題があった
  • 週末は平日よりも寝る時間・起きる時間が遅れ、睡眠時間も延びた
  • 2〜3歳の子どもで、SJLとASDのコア症状(社会性・行動問題)との間に明確な正の相関が見られた
  • 3歳以上では、SJLと「個人−社会性発達レベル」に弱い関連があったものの、コア症状との関連は見られなかった

✅ 結論と意義

  • 2〜3歳のASD児では、週末と平日で睡眠リズムがズレる(SJLが大きい)ほど、コア症状が悪化する可能性がある
  • このことから、ASDの特に幼い子どもにとって「毎日同じ生活リズムを保つこと」が非常に重要であると示唆されました。

この研究は、「睡眠リズムの乱れがASDの症状に悪影響を与える可能性」を初めて明確に示した重要な知見であり、特に低年齢のASD児に対する生活習慣指導の必要性を強く後押しする内容となっています。

Frontiers | Luteolin Mitigates Oxidative Stress and Multi-Organ Impairment in a Propionic Acid-Induced ASD Rodent Model

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)モデルラットにおいて、ルテオリン(天然の抗酸化・抗炎症成分)が酸化ストレスや多臓器障害を改善できるかを調べたものです。


🔍 背景と目的

  • ASDには、酸化ストレス、肝臓や腎臓の機能障害、腸のバリア機能の低下など、全身的な問題が伴うことが知られています。
  • プロピオン酸(PPA)という物質を使うと、これらの障害を持つASD様の症状を持つ動物モデルが作れます。
  • 本研究では、PPAで誘発されたASDモデルにルテオリンを投与し、酸化ストレスや臓器障害をどの程度改善できるかを検証しました。

🧪 実施内容

  • ラット50匹を5群に分け実験:
    • コントロール群
    • PPA処理群
    • ルテオリン単独群
    • 治療群(PPA後にルテオリン投与)
    • 予防群(ルテオリン後にPPA投与)
  • 測定した主な項目:
    • 抗酸化物質(GSH、GST、SOD、カタラーゼ)
    • 酸化ストレス指標(脂質過酸化物)
    • 腸の透過性マーカー(ゾヌリン)
    • 肝機能マーカー(ALT, AST, ALP)
    • 腎機能マーカー(尿素窒素、クレアチニン)

📊 主な結果

  • PPA投与により、抗酸化力の低下、酸化ストレスの増加、肝・腎機能障害、腸バリア破壊が起きた。
  • ルテオリン投与により、これらの悪化が有意に改善された。
  • ROC解析では、酸化ストレスや臓器障害マーカーが高精度でASDモデルの診断に役立つ指標となることが示された。
  • 相関解析では、抗酸化力の低下と障害指標の悪化に強い関連が認められた。

✅ 結論と意義

  • ルテオリンは、酸化ストレスを抑え、肝臓・腎臓・腸バリア機能を改善する効果を示した。
  • 本研究は、ASDに伴う全身的な異常を自然由来成分で改善できる可能性を示しており、将来的なASD支援法のひとつとなる可能性がある。
  • ただし、臨床応用には今後の人での研究が必要とされています。

この研究は、ASDに関連する身体面の問題に対して、ルテオリンのような安全な天然成分が新たな介入法となる可能性を示唆する重要な成果です。

Frontiers | Disrupted Functional Connectome in a Rodent Model of Autism During Social Isolation

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)モデルのマウスにおいて、社会的孤立に対する脳の反応がどのように変化するかを調べたものです。


🔍 背景と目的

  • ASDでは、社会的なつながりへの動機づけが低下することが知られていますが、孤立から再び仲間と交流したいという意欲がなぜ弱くなるのかはよくわかっていません。
  • 本研究では、妊娠中にバルプロ酸(VPA)に曝露されたマウスを使い、社会的孤立後の脳活動と神経回路の変化を解析しました。

🧪 方法

  • 対象:VPA曝露群と**正常対照群(CTR)**のマウス
  • 手順:
    • 生後の若いオスのマウスを24時間、仲間から隔離
    • 脳内の神経活動をc-Fos免疫染色で可視化
    • 得られた活動パターンから、**脳領域間の機能的結合(コネクトーム)**を再構築して解析

📊 主な結果

  • 正常対照群では、孤立後に
    • 報酬系(メゾリムビック報酬系、MRS)

    • 社会脳ネットワーク(SBN)

    • ストレス関連ネットワーク

      に関わる領域の活動が大きく高まった。

    • 特に**間脳間核(IPN)**が活動の中心にあった。

  • 一方、VPA曝露群では、
    • 活動は広範囲に広がるが特異性に欠けるパターンになり、
    • 特に社会行動やストレス制御に関わるネットワークの連携が乱れていた。

✅ 結論と意義

  • 胎児期のバルプロ酸曝露は、社会行動やストレス応答に関わる神経回路を乱すことが示された。
  • ASDにおける社会的孤立への感受性の変化や、再接触への動機低下の背景に、こうした神経ネットワークの異常が関わっている可能性がある。
  • 本研究は、ASDの神経生物学的理解を深め、将来的な治療ターゲットの特定に役立つ可能性を示しています。

この研究は、「孤立に対する脳の反応」という視点からASDの理解を広げる貴重な知見を提供しており、社会的動機づけを支える神経基盤に焦点を当てた先駆的な成果といえます。

Frontiers | A narrative review of research advances in gut microbiota and microecological agents in children with ADHD

この論文は、注意欠如・多動症(ADHD)と腸内環境(腸内マイクロエコロジー)との関係に関する研究の進展をまとめたナラティブレビューです。


🎯 研究の背景と目的

  • 最近、ADHDの発症や症状に腸内細菌叢(マイクロバイオータ)の乱れが関与している可能性が指摘されています。
  • 本レビューでは、
    1. ADHD児の腸内細菌の特徴

    2. 腸内細菌の変化が神経系・神経内分泌系・免疫系を通じてADHDにどう影響するか

    3. プロバイオティクス(善玉菌)、プレバイオティクス(善玉菌のエサ)、シンバイオティクス、便微生物移植(FMT)などの介入法の可能性

      を整理・分析しています。


🔍 方法

  • PubMed、Google Scholar、EBSCO、Scopus、Medlineを使って、
    • 「ADHD」「腸内細菌」「プロバイオティクス」「プレバイオティクス」「シンバイオティクス」「便微生物移植(FMT)」などのキーワードで検索
  • 英語で発表された全ての年の研究を対象に網羅的レビューを実施

📊 主な内容と発見

  • ADHDの子どもでは、腸内細菌の構成に変化がみられることが複数の研究で報告されている。
  • 腸内環境の乱れは、脳-腸-免疫軸を通じて、注意力、衝動性、感情調整などに影響を与える可能性がある。
  • プロバイオティクスやFMTを用いることで、
    • 腸内環境を整え、
    • 中枢神経刺激薬(例:メチルフェニデートなど)の効果を補強したり、
    • ADHD症状の改善を促したりできる可能性が示唆されている。

✅ 結論と意義

  • 腸内細菌をターゲットにした介入は、ADHDの新たな補完的治療法になりうる。
  • 特に、薬物療法との併用や、腸内環境の改善による行動・認知のサポートが期待される。
  • ただし、今後はより質の高い臨床研究が必要であり、安全性や長期的な効果の検証も求められます。

このレビューは、ADHDの治療において腸内環境を視野に入れる重要性を強調しており、将来的な個別化医療や統合的支援戦略への発展を示唆する内容となっています。