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米国に自閉症の診断率上昇理由とは?診断基準や社会制度の変化がもたらした影響

· 約11分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、自閉症の診断率上昇の背景、診断の経済的・社会的影響、診断ツールの有効性、そして自閉症に関連する脳の構造的変化について最新の研究を紹介しています。トランプ大統領の発言をめぐる議論を踏まえ、自閉症の増加が環境要因ではなく診断基準の変化や社会制度による影響である可能性を指摘。また、自閉症の診断前後での医療費や生活の質の変化を調査した研究、診断ツール「STAT」と「ADOS-2」の精度比較、そして自閉症児の脳内の周囲血管腔(PVS)の拡大が症状の重症度と関連していることを示した研究について詳しく解説しています。これらの研究は、自閉症の診断・支援のあり方を見直し、より正確で効果的な介入方法を考えるための重要な示唆を提供しています。

社会関連アップデート

Opinion | What’s Behind the Rise in Autism Diagnoses

トランプ大統領の「自閉症の増加は環境毒素のせい」という発言が議論を呼んでいます。しかし、科学的なデータは、ワクチンや環境要因が自閉症を引き起こすという説を否定しています。実際には、診断基準の変化や補助金制度、ソーシャルメディアの影響が診断率の上昇に関係している可能性が高いと考えられています。自閉症の主な原因は遺伝的要因にあるとされ、今後の研究もその方向で進められるべきでしょう。詳細な分析と背景について、ぜひ記事をご覧ください。

Quality of Life and Societal Cost in Autistic Children: An Exploratory Comparative Study Pre- and Post-Diagnosis

この研究は、自閉症の診断前後で子どもの生活の質(QoL)や社会的コストがどのように変化するかを調査したものです。オランダの2~10歳の自閉症の子ども36名を対象に、医療、福祉、教育支援の利用状況や費用を診断前後で比較しました。

主な結果

  1. 医療・福祉費用の変化
    • 診断前の年間総費用:€6513
    • 診断後の年間総費用:€5060(約22%減少、ただし統計的には有意でない)
    • 診断後は、身体的な医療費が減り、精神的なケア(心理的サポートなど)にシフト
    • 特別支援保育が診断前後ともに最も大きなコスト要因だった。
  2. 生活の質(QoL)の向上
    • 診断後のQoLスコアが 0.58 → 0.66 に改善(統計的には有意ではないが、日常生活での困難は減少)。
    • 学校の欠席が減る傾向が見られた。
  3. 診断前のコストが診断後のコストに影響
    • 診断前の費用が高いほど、診断後のコストも高くなる傾向(回帰分析により23%の説明力)。
    • これは、診断前に手厚い支援を受けていた子どもは、診断後も引き続き支援を必要とする可能性があることを示唆。

結論と意義

  • 自閉症の診断を早期に確定することで、適切な支援計画を立てられる
  • 早期診断による適切な支援が、子どもの生活の質を向上させ、社会全体のコストを抑える可能性がある
  • 特別支援の負担が大きいため、今後はより効果的な支援体制の検討が求められる

この研究は、自閉症の診断が子どもや社会に与える影響を、費用と生活の質の両面から明らかにし、早期診断と適切な支援の重要性を示す貴重なデータを提供しています。

Sensitivity and Specificity Between the Screening Tool for Autism in Toddlers and Young Children (STAT) and Autism Diagnostic Observation Schedule (ADOS-2)

この研究は、幼児向けの自閉症スクリーニングツール「STAT(Screening Tool for Autism in Toddlers & Young Children)」が、より詳細な診断評価ツール「ADOS-2(Autism Diagnostic Observation Schedule-Second Edition)」とどの程度一致するかを調査したものです。ADOS-2は非常に信頼性の高い診断ツールですが、時間とコストがかかるため、より手軽なSTATが代替または補助ツールとして有効かどうかを評価しました。

研究方法

  • 対象:24~36か月の幼児 44名(STATとADOS-2の両方を実施)
  • 追加分析
    • STATを受けた102名、ADOS-2を受けた72名のデータを用い、臨床診断との一致率を比較
  • 評価基準
    • 感度(Sensitivity):自閉症の子どもを正しく識別できる割合
    • 特異度(Specificity):自閉症でない子どもを正しく識別できる割合

主な結果

  1. STATとADOS-2の診断一致率は 90.9%(40/44名)
  2. 感度(自閉症の正しい検出率)
    • STAT:90.9%(30/33)
    • ADOS-2:100%(33/33)(全員を正しく診断)
  3. 特異度(誤診を避ける正確さ)
    • STAT:90.9%(10/11)
    • ADOS-2:100%(11/11)(全員を正しく診断)

結論と意義

  • STATは、ADOS-2と非常に高い一致率を示し、自閉症の診断補助ツールとして有望
  • ADOS-2よりも短時間で評価できるため、診断待ち時間の短縮に貢献できる可能性
  • 感度が高いため、自閉症の可能性がある子どもを見逃しにくいが、特異度はADOS-2に比べやや低いため、誤診のリスクは少しある。

この研究は、STATが幼児の自閉症診断において効果的なスクリーニングツールとなり得ることを示し、より迅速な診断プロセスの確立に貢献できる可能性を示唆しています。

Enlarged perivascular spaces under the dorso-lateral prefrontal cortex and severity of autism

この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもに見られる「拡大した脳内の周囲血管腔(ePVS)」と症状の関連性を調査したものです。**周囲血管腔(PVS)**は、脳内の老廃物を排出する「グリンファティックシステム(glymphatic system)」の一部であり、過去の研究では、ASDの重症度が高い子どもでPVSが拡大している可能性が指摘されていました。しかし、どの部位のPVSが拡大しているのか、またその拡大が特定のASD症状と関係するのかは明らかではありませんでした

研究方法

  • 対象:ASDの子ども36名(1~9歳)
  • 測定:MRIを用いて脳の72の領域のPVSの数・直径・体積を自動解析し、ASDの重症度および以下の3つの症状との関連性を調査
    1. 言語障害(Verbal dysfunction)
    2. 常同行動(Stereotypies)
    3. 感覚過敏(Hypersensoriality)

主な結果

  1. ASDの症状ごとに、PVSの拡大が特定の脳領域に集中していた
  2. 前頭葉の「背外側前頭前野(DLPFC)」の下にあるPVSが特に拡大しており、その拡大がASDの重症度と関係していた
  3. DLPFCのPVSが大きい子どもほど、言語障害、常同行動、感覚過敏の症状が強かった
  4. DLPFCの過剰なPVS拡大により、DLPFCの活動が低下し、ASDの症状が出現する可能性がある。

結論と意義

  • ASDの子どもでは、前頭葉(DLPFC)の下にあるPVSが拡大しており、それが症状の重さと関連している可能性がある
  • PVSの拡大がASDの神経活動の異常と関係しているならば、脳内の老廃物の排出機能(グリンファティックシステム)を改善する治療が、新しいアプローチになるかもしれない
  • 今後の研究でPVSの役割をさらに解明することで、ASDの診断や治療に新たな方向性を提供できる可能性がある

この研究は、ASDの症状と脳の構造的な異常(PVSの拡大)の関連を明らかにし、ASDの原因解明と新たな治療戦略の開発につながる重要な知見を提供しています