ACTを基にした親向けプログラムのストレス軽減効果
この記事では、自閉スペクトラム症(ASD)に関連する最新の学術研究を紹介しています。主な研究内容として、少数派コミュニティのASD児支援を目指したファミリー・ピア・アドボケイトモデルの有効性、紡錘状回における顔認識の神経的特徴、セーバー病とADHDの関連性、ACTを基にした親向けプログラムのストレス軽減効果、教育者とASD幼児の会話相互作用の安定性分析、そして神経管血管形成異常がASDの発症要因となる可能性などが挙げられます。これらの研究は、ASDの発症メカニズムや支援方法の理解を深め、より効果的な介入や治療法の開発に寄与する新たな知見を提供しています。
学術研究関連アップデート
A Family Peer Advocate Model to Address Disparities in Access to Care for Minority Autistic Children with Co-Occurring Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)を併発する少数派(ラテン系および黒人)の子どもたちとその家族を対象に、ファミリー・ピア・アドボケイト(FPA)モデルの効果を検証しました。FPAは、家族に寄り添いながらケアへのアクセスを改善し、ストレス軽減や支援を促進する役割を担います。
主な内 容
- 対象: FPAモデル(介入群、n=24)と通常の治療(対照群、n=24)にランダムに割り当て。
- 方法: FPAモデルでは、6か月間で計12回(対面4回、遠隔8回)の個別サポートを提供。
- 測定項目:
- 主な成果: 介護者のストレスと家族の生活の質。
- 副次的成果: 子どもの行動問題(いらだち、多動)、家庭での行動遵守、サービス利用状況。
- 結果:
- FPAモデルによる介入は、介護者のストレス軽減、家族の生活の質向上、ADHDを併発するASD児の問題行動(いらだち、多動)の改善に効果的。
- 治療への満足度は、ADHD併発の有無に関わらず向上。
結論
FPAモデルは、特にADHDを併発するASD児の介護者にとって有益であり、外向的な行動問題が多い場合にも効果的であることが示されました。このモデルは、少数派コミュニティでのケア格差解消や家族支援に貢献する可能性があります。
A multimodal neural signature of face processing in autism within the fusiform gyrus
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)における顔認識の神経的特徴を、**紡錘状回(fusiform gyrus, FFG)**の多様な神経画像データを用いて調査したものです。ASDの人々は、一般的に顔認識の仕方が典型発達の人々と異なると報告されており、その神経的な基盤を明らかにすることが目的です。
主な内容
- 対象と方法:
- 7~30歳のASDと非ASDの人々(合計204名)を対象に、構造MRI、安静時機能MRI、課題中の機能MRI、**脳波(EEG)**の4つの神経画像データを収集。
- ノーマティブモデリングと独立成分分析を組み合わせて、個人ごとの脳機能や構造の偏差を統合的に評価。
- 主要な発見:
- ASD群と非ASD群では、FFGにおける複数の神経画像データ(特に安静時機能MRI、構造MRI、課題中機能MRI、脳波)に基づくマルチモーダル成分が有意に異なっていました。
- このマルチモーダル成分は、社会的機能(例: 顔認識や社会的スキル)に関連しており、ASDにおける非社会的機能とは関連していませんでした。
- マルチモーダルデータは、単一のデータ(例: 機能MRIだけなど)よりもASDと非ASDの区別に優れていました。
- 意義:
- ASDにおける顔認識と社会的機能の理解を深 める新しい視点を提供。
- 社会的機能に関連する脳のメカニズムや将来的な予測バイオマーカーの特定に役立つ可能性。
結論
この研究は、顔認識に関するASDの神経的な特徴が多面的な脳機能や構造の相互作用に関連していることを示しました。この成果は、ASDにおける社会的機能を理解し、より正確な診断や予測方法の開発につながる可能性があります。
Possible association between Sever’s disease and attention deficit hyperactivity disorder. a prospective observational study - Journal of Orthopaedic Surgery and Research
この研究は、小児期に一般的な足の痛みの原因である**セーバー病(Sever’s disease)と注意欠如・多動症(ADHD)**との関連性を調査したものです。研究は2023~2024年の1年間で実施され、足の痛みを訴える238名の子どもからセーバー病と診断された88名を対象に行われました。また、健康な対照群90名も評価に含まれました。
主な結果
- ADHDの有病率:
- セーバー病の患者のうち、**70.5%(88人中62人)**がADHDと診断されました。
- 対照群では、**13.3%(90人中12人)**のみがADHDと診断され、セーバー病患者のADHD有病率は統計的に有意に高いことが示されました(p<0.01)。
- 性別の影響:
- セーバー病患者の中で、男子は女子よりもADHDと診断される割合が高いことが判明(p<0.018)。
- スポーツ活動の影響:
- スポーツ活動に参加していないセーバー病患者でADHDと診断される割合が特に高いことが確認されました(p<0.01)。
結論
セーバー病を持つ子ども、とくに男子やスポーツ活動をしていない子どもは、ADHDを持つ可能性が高いと考えられます。セーバー病の診断時に、ADHDの評価を行うことが有用である可能性が示唆されました。この研究は、身体的な症状と神経発達症状の関連性について新たな視点を提供しています。
Effects of an acceptance and commitment-based parenting program for parents of children with autism spectrum disorder on parenting stress and other parent and children health outcomes: A pilot randomized controlled trial
この研究は、受容とコミットメント療法(ACT)に基づいた親向けプログラムが、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを持つ親に与える効果を検証したものです。このプログラムは、感情とストレス管理、育児スキルのトレーニング、自閉症に関する教育、セルフケア学習を組み込んでいます。
研究方法
- 40人の親を対象に無作為に2つのグループに分け、ACTプログラム(8回セッション)を受けるグループと通常のケアを受けるだけのグループに割り当てました。
- プログラムの実施可能性や満足度をアンケートやインタビューで評価しました。
主な結果
- プログラムの実施可能性:
- 多くの親が参加とセッションの完了に意欲的であり、プログラムは実施可能であると判明。
- 満足度も高く、プログラムを有益と感じた親が多い。
- 親への効果:
- ACTプログラムを受けた親は、以下の点で有意な改善が見られました:
- 育児ストレスの軽減。
- 抑うつ症状と不安症状の減少。
- 育児に対する自信の向上。
- ACTプログラムを受けた親は、以下の点で有意な改善が見られました:
- 子どもへの効果:
- プログラム後、親の関与が増えたことで、ASDの子どもたちにおける感情的・行動的問題の減少が確認されました。
結論
このACTプログラムは、ASDの子どもを持つ親にとって実施可能であり、受け入れられやすく、有望な効果があることが示されました。将来的には、対象を広げた大規模な研究で、ASDや他の神経発達症の子どもを持つ親への効果をさらに検証することが提案されています。
この研究は、ASDを持つ子どもの親が直面するストレスや不安を軽減するための新しい支援策を提供する可能性があります。