このブログ記事では、発達障害や自閉症に関する最新の学術研究を紹介しています。まず、ADHDや素行障害の診断における人種的格差や、サウジアラビアの特別支援教育教師の視点を通じた自閉症児のコミュニケーション指導に関する研究を取り上げています。次に、アフリカでの発達障害児とその介護者に対するレジリエンス向上プログラムや、自閉症の子どもにおける逸走行動の治療方法、NDBIの導入におけるABA現場での課題も紹介されています。また、ADHDの若者が成人精神保健サービスに移行する際の課題や、ボツリヌス毒素注射が発達障害児の口腔機能に与える影響、知的障害者と自閉症者のためのアシスティブ・テクノロジーの現状も取り上げられています。最後に、自閉症のバイオマーカーとしての細胞外小胞タンパク質の解析研究も紹介されています。
学術研究関連アップデート
Large-scale analysis reveals racial disparities in the prevalence of ADHD and conduct disorders
この研究は、**ADHD(注意欠陥多動性障害)とCD(素行障害)の診断における、非ヒスパニック系白人と非ヒスパニック系黒人の間の人種的な格差を明らかにすることを目的としています。米国の50の医療機関から収集された電子カルテデータを分析し、849,281人のADHD患者と157,597人のCD患者を対象に調査を行いました。結果、非ヒスパニック系白人は非ヒスパニック系黒人に比べて26%多くADHDと診断され、CDと診断される可能性は61%**低いことが分かりました。また、白人は黒人に比べてADHDの診断年齢が8歳以上高く、特に白人成人のADHD診断が多いのに対し、黒人成人の診断はほとんどありませんでした。さらに、黒人女性はADHDの診断率が最も低く、白人女性はCDの診断率が最も低いという性別差も見られました。これらの格差は、潜在的なバイアスや制度的な人種差別が影響している可能性が示唆されており、文化的に適切な診断の重要性が強調されています。
Autism and Communication Skills: Perspectives of Special Education Teachers in Saudi Arabia
この論文は、サウジアラビアの特別支援教育教師が、自閉症児のコミュニケーションスキルの指導に関してどのような経験をしているかを調査しています。サウジアラビアの教育システムは性別で分けられており、教育省(MoE)は、都市の規模や学生数にかかわらず、平等な予算、給与、補助金を提供し、同じカリキュラムと政策を実施しています。この特異な環境が特別支援教育教師の経験に影響を与えている可能性があるため、その実情を理解するために、13人の特別支援教育教師に対して半構造化インタビューを実施しました。インタビューの結果、コミュニケーションスキルの評価と指導、サウジアラビア教育省の役割、指導に関連する課題やニーズというテーマが浮かび上がりました。この研究結果に基づき、特別支援教育教師や教育省に向けた推奨事項が提案されています。
Supporting African communities to increase resilience and mental health of kids with developmental disabilities and their caregivers using the World Health Organization’s Caregiver Skills Training Programme (SPARK trial): study protocol for a cluster randomised clinical controlled trial - Trials
この論文は、発達障害(DD)を持つ子どもとその介護者のレジリエンスとメンタルヘルスを向上させるため、WHOの「Caregiver Skills Training (CST)」プログラムの効果を調査する試験のプロトコルを紹介しています。ケニアとエチオピアの4つの地域で実施されるこの試験は、非専門家のファシリテーターがCSTを提供し、その効果とコスト影響を評価します。544組の子どもと介護者を対象に、介入群と通常のケアを受ける対照群にランダムに分け、18週間と44週間後に評価します。主要な評価項目は、子どもの行動と感情の問題、介護者の生活の質です。研究は、低・中所得国における発達障害児とその家族を支援する将来の研究や政策に役立つ証拠を提供することを目指しています。
A Retrospective Consecutive Controlled Case Series Analysis of the Assessment and Treatment of Elopement in Children with Autism in an Inpatient Setting
この研究は、自閉症の子どもにおける「逸走(エロープメント)」行動の評価と治療について、入院環境で行われた17件の治療を回顧的に分析したものです。14人の自閉症の子どもを対象とした機能分析の結果、逸走は主に物を得るためや自動強化によって維持されていることが判明しました。治療では、結果に基づく戦略や先行および結果に基づく戦略を組み合わせて用いており、特定の治療要素や治療の一般化に関する戦略も検討されました。13人の子どもにおいて、逸走を80%以上減少させる効果的な治療が開発されました。これらの結果は、臨床家がこの危険な行動の評価と治療を計画する際の指針となる可能性があります。
The Challenges Associated with Changing Practice: Barriers to Implementing Naturalistic Developmental Behavioral Interventions in ABA Settings
この研究は、自閉症の子どもに対する自然主義的発達行動介入(NDBI)をABA(応用行動分析)環境で導入する際の課題を探ったものです。NDBIは子ども主導の学習機会を重視し、社会的に有効な介入方法とされていますが、現在のABAサービスは主 に成人主導の構造化された訓練、特に離散試行訓練(DTT)に依存しています。DTTは、強度やスキルの一般化の制限、さらには潜在的な害が批判されています。ABA環境でNDBIを導入するには、DTTからの転換が必要ですが、この研究ではABA提供者のNDBIに対する見解や、DTTからNDBIに移行する際の障壁が明らかにされています。
18人のABA前線および監督者に対するインタビューを分析した結果、ABAの提供者はNDBIを概ね好意的に見ていましたが、DTTからNDBIに移行する際の使いやすさ、効果、関係者の認識、臨床判断において課題が確認されました。特に、既存のDTT戦略を「学び直す」必要性、NDBIに関する訓練や自己効力感の不足、混在するNDBIへの態度、ABAサービス提供全般におけるシステム的な問題が挙げられました。これらの結果は、NDBIの導入を成功させるために、ABA臨床現場でのより具体的な戦略が必要であることを示唆しています。
How I’m learning to navigate academia as someone with ADHD
このエッセイでは、ADHDと診断された著者のAna Bastosが、学術界でのキャリアをどのようにナビゲートし、バランスを見つけたかについて述べています。彼女は、ADHDが原因で感じた常時の不安や燃え尽き感が、実は彼女の成功を支える要因でもあったと気づきました。物事を効率的に管理するため、彼女は時間管理ではなくエネルギー管 理に焦点を当て、動機づけや外部の助けを利用しながら働いています。整理された空間や作業の計画、適切なサポートの重要性を強調し、自身の限界に対して親切に向き合うことの大切さを学びました。Bastosは、学術界が多様な考え方や働き方を受け入れることで、全ての人々が恩恵を受けられると強調しています。
Negative effects on oral motor function after submandibular and parotid botulinum neurotoxin A injections for drooling in children with developmental disabilities
この研究は、発達障害を持つ子どものよだれ治療として行われる、ボツリヌス毒素A(BoNT-A)の顎下腺および耳下腺(4つの腺)への注射が口腔運動機能に与える悪影響を評価しています。125人の子どもを対象に、注射後に唾液の飲み込みや食事、飲み物の摂取、発話に関する問題を調査しました。結果として、36%の子どもに口腔運動機能の問題が見られ、特に食事に関連する問題が多く報告されました。ほとんどの問題は軽度であり、4週間以内に解消されました。また、顎下腺注射のみを受けた参照群と比較して、問題の頻度や解決までの期間はほぼ同じでしたが、4つの腺への注射では中等度の問題がより多く見られました。
Social Inclusion for People with Intellectual Disability and on the Autism Spectrum through Assistive Technologies: Current Needs and Future Priorities
この研究は、自閉症スペクトラムや知的障害を持つ人々(pwID)の社会的包摂を促進するために、**アシスティブ・テクノロジー(AT)**を利用する現状の課題と将来の優先事項を探ることを目的としています。24人の国際的な専門家を対象とした質的調査の結果、コミュニケーションや物理的なアクセスに関する問題、意識の欠如、スティグマが強調されました。また、ATに関連する課題としては、アクセスの制限、十分なトレーニングの欠如、意識やスキルの不足、および当事者や家族が十分に関与していないことが指摘されています。結論として、アクセシビリティの向上、意識の喚起、スキルの強化、家族の関与、カスタマイズに焦点を当てた戦略が提案され、今後の研究の必要性として、科学的発展、インクルーシブなアプローチ、技術開発のパラダイムの変化が挙げられています。
Challenges in transitioning from adolescent to Adult Mental Health Services for young adults with ADHD in Italy: an observational study
この研究は、イタリアにおける注意欠陥・多動性障害(ADHD)を持つ若年成人が**成人精神保健サービス(AMHS)**に移行する際の課題を調査したものです。2017年から2021年の間に18歳になった36名のADHD患者に対してインタビューを行い、彼らの移行経験と、担当した小児科医やAMHSの臨床医の意見を収集しました。
結果として、16名がAMHSへの紹介を受けましたが、うち8名(全体の22.2%)のみがAMHSでケアを受け続けることができました。また、20名は専門サービスの不足や治療への非協力などの理由で紹介が行われませんでした。インタビュー時点では、11名が高いケアニーズを持っていましたが、そのうち5名は精神保健専門家によるフォローを受けていませんでした。
結論として、ADHDを持つ若者の多くは、適切な移行プロセスが始まらないか完了しないケースが多く、特に成人患者のケアが可能なサービスを見つけるのが困難でした。この結果を受けて、移行に関するエビデンスに基づいたガイドラインの策定が、より多くの患者に対する適切なケアを保証するための公衆衛生上の優先課題であると結論付けています。
Frontiers | Proteomics analysis of extracellular vesicles for biomarkers of autism spectrum disorder
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の早期診断に向けて、血漿中の**細胞外小胞(EV)**のタンパク質を解析し、ASDのバイオマーカーとしての可能性を探るものです。健常者(HC)とASD患者から採取した血漿EVを、**近接延長アッセイ(PEA)**技術を用いて解析し、1,196種類のタンパク質の発現レベルを測定しました。その結果、EVの形態やサイズ分布に有意な差は見られなかったものの、ASD患者ではEVの数がやや少ないことが確認されました。
また、ASD患者のEVにおいて発現が顕著に低下していた5つのタンパク質が特定されました。それらは、WWP2、HSP27、CLEC1B、CD40、およびFRalphaです。機械学習と相関分析の結果、これらのタンパク質がASDの診断に有望なバイオマーカーとなり得ることが示唆されました。
この研究は、EVタンパク質の組み合わせがASDの診断に役立つ可能性を示唆しており、ASDの早期診断方法の開発に向けた重要なステップとなることが期待されています。