最小限の発話能力を持つ自閉症児に対する強化子テストの課題
このブログ記事では、発達障害に関する最新の学術研究が紹介されています。自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもたちの学習環境にバイオフィリック要素を取り入れる利点から、知的障害を伴わない自閉症青年の社会的機能のプロファイル特定、最小限の発話能力を持つ自 閉症児に対する強化子テストの課題、サウジアラビアのADHD児を持つ母親の心理的負担やスティグマ、発達障害児の介護者のストレスの予測因子、自閉症診断を失った個人の特性比較、そして視線とイントネーションを通じた精神状態推測能力に関する研究が幅広く取り上げられています。
学術研究関連アップデート
Biophilic Approaches to Learning Environments for Children with Autism: A Scoping Review
この論文は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもたちのための学習環境にバイオフィリック要素(自然と親しむデザイン要素)を取り入れることの影響を調査したシステマティック・スコーピングレビューです。合計17件の研究をレビューし、触覚的、視覚的、聴覚的な自然要素や自然界に見られるパターンを教室デザインに取り入れる効果を検討しました。研究結果から、バイオフィリックデザインが子どもたちの身体的および精神的健康の向上に貢献できる可能性が示され、都市環境や座りがちな生活を送る人々にとっても有益であることが示唆されています。具体的な推奨事項には、自然のパターン、水の要素、自然の音、日光の導入が含まれています 。
A Multi-Method Approach for the Identification of Social Functioning Profiles in Autistic Adolescents and Young Adults Without Intellectual Disability
この論文は、知的障害のない自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ青年と若年成人における社会的機能(SF)のプロファイルを特定することを目的としています。49人の自閉症者(12~30歳)を対象に、様々な手法で社会的困難を評価し、潜在プロファイル分析を用いて異なるSFプロファイルを明らかにしました。結果として、2つのプロファイルが確認され、一方は社会的に引きこもりがちで、もう一方は他者との交流が少ないことが判明しました。また、それぞれのプロファイルで異なるメンタルヘルス問題の併発が見られ、社会的機能に与える影響が強調されました。この研究は、自閉症者のSFが一様ではなく、個々のニーズに合わせた介入が必要であることを示唆しています。
Reinforcer Testing for Minimally Verbal Children with Autism
この研究は、最小限の発話しかできない自閉症の子どもに対して、強化子(reinforcer)テストを実施する際の課題を調査したものです。このような子どもたちは、興味を持つものが限られているため、強化子となる刺激を見つけるのが難しく、介入に支障が出ることがあります。研究では、4人の最小限の発話能力を持つ自閉症児に対して、一般的に使用される強化子評価手法を検証しましたが、修正を加えないと有効な結果が得られないことがわかりました。修正内容には、条件付き指導法や任意の反応の慎重な評価が含まれています。この結果から、最小限の発話能力を持つ自閉症児には、一般的な強化子評価手法をそのまま使用するのではなく、適切な調整が必要であることが示唆されています。
Mothering Children with ADHD: The Influence of Courtesy Stigma and Psychological Distress on Family Life of Saudi Mothers
この研究は、サウジアラビアのADHD(注意欠陥・多動性障害)を持つ子どもを育てる母親が経験する社会的スティグマ(courtesy stigma)や心 理的苦痛が、家庭生活にどのような影響を与えるかを調査しています。研究には84人のサウジアラビア人の母親が参加し、階層的重回帰分析を使用して、社会人口統計的要因やスティグマ、心理的苦痛が家庭生活に与える影響を評価しました。結果、母親の教育レベルが家庭生活に有意な影響を与える一方で、スティグマと心理的苦痛が最も強力な予測因子であり、これらが家庭のストレスに大きく関連していることが明らかになりました。研究は、ADHDを持つ子どもを育てる家庭の負担を軽減するために、家族を中心とした支援や、ADHDに関するスティグマを減少させる全国的なプログラムが必要であると結論付けています。
Prevalence and Predictors of Stress Among Caregivers of Children with Developmental Disorders
この研究は、発達障害を持つ子どもの介護者におけるストレスの有病率と予測因子を調査したものです。200人の母親が対象となり、PSS-10(知覚されたストレススケール)を用いてストレスを評価しました。結果、介護者のストレスは社会人口統計学的要因や子どもの特性と正の相関を示し、特に共同家族と核家族、娘と息子を持つ介護者で有意なストレス差が見られました。また、介護者と子どもの年齢、診断からの時間、子どもの数がストレスを増加させ、収入や介護者の教育レベルがストレスを減少させる要因であることが明らかになりました。この研究は、子どもの特性と親のストレスが相互に関連しており、包括的な家族支援が必要であることを強調しています。
Characteristics of Individuals Losing Autism Diagnosis: A Comparative Study With Typically Developing and Autism Spectrum Disorder Individuals
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断を失った個人(LAD:自閉症診断の喪失)の特性を明らかにし、彼らの現在の精神医学的診断を評価することを目的としています。また、LADの個人と定型発達(TD)およびASDの個人を、現在の精神病理、機能性、社会人口統計学的および臨床的変数の観点から比較しています。
研究対象は、5歳から18歳の85人で、LADグループ30人、ASDグループ32人、TDグループ23人が含まれました。LADグループは、ASDグループに比べて、言語習得が早く、早期に特別支援教育を開始し、長期間にわたり身体的運動支援を受け、知的能力が高く、症状の重症度が低いことが確認されました。しかし、LADグループの80%には少なくとも1つのDSM-5診断がありました。ABC(自閉症 行動チェックリスト)とSRS(社会的応答性尺度)のスコアでは、ASD > LAD > TDという有意な違いが見られました。
結論として、ASDが退行しても、個人は残存する困難を抱え、他の精神病理のリスクが残るため、継続的なモニタリングと支援が必要であると強調されています。
Frontiers | A scoping review of interaction dynamics in minimally verbal autistic individuals
このスコーピングレビューは、最小限の言語能力を持つ自閉症スペクトラム障害(MV自閉症)の個人における相互作用のダイナミクスについての現行の証拠を調査し、コミュニケーション発達や介入にどのような影響があるかを探るものです。自閉症と診断され、言語能力が限られているMV個人を対象とし、対人コミュニケーションにおける相互作用を記述する研究が含まれています。レビューでは、ターンテイキング、社会的連鎖性、社会的バランスなどを評価するために行動コーディングが使用されることが多いが、測定方法にばらつきがあり、個人差に関する十分な証拠が少ないことが指摘されました。今後の研究では、MV自閉症個人とそのコミュニケーションパートナーが相互作用を構築する方法の詳細な理解が求められてい ます。
Frontiers | Neural Correlates of Facial Recognition Deficits in Autism Spectrum Disorder: A Comprehensive Review
このレビューは、自閉症スペクトラム障害(ASD)における顔認識の障害とその神経メカニズムを探るものです。ASDの人々は、顔の認識や感情の解釈が難しく、社会的なコミュニケーションに支障をきたします。本研究では、紡錘状回(FG)、扁桃体、上側頭溝(STS)、および**前頭前野(PFC)**といった脳領域における機能的異常や解剖学的な違いが、顔認識の問題にどのように関連しているかを分析しています。特に、FGの活動低下や扁桃体とSTSの異常な活動が顔の手がかり処理を困難にし、PFCに依存することで認識課題が増加することが指摘されています。また、これらの領域間の接続の途絶も問題を悪化させます。今後の研究では、多面的な脳画像解析を用いて発達経路を理解し、AIと機械学習を活用した個別化された治療法の設計が推奨されています。
Frontiers | Developing a Participatory Research Framework through Serious Games to Promote Learning for Children with Autism
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASC)を持つ子どもたちの学習を促進するために、シリアスゲーム(SG)を活用する参加型研究フレームワークの開発を目的としています。研究では、ASCの個別的なニーズに対応するために、ユーザーや利害関係者を「設計パートナー」として設計プロセスに参加させる新しいフレームワークが提案されています。このフレームワークは、**SALY(Simulation, Attention, Learn, and PLAY)**と呼ばれる新しいシリアスゲームの開発に適用され、注意力の向上や感情認識の強化を目指しました。混合研究法を用いて、ゲームの効果や効率、ユーザーの満足度を評価した結果、このゲームが教育者や学習者にとって有益であることが示されました。
Frontiers | Lookers and Listeners on the Autism Spectrum: The Roles of Gaze Duration and Pitch Height in Inferring Mental States
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ成人と定型発達の成人が、視線の持続時間と音声のイントネーションを用いて、他者の精神状態をどのように推測するかを調査しています。視線追跡実験では、仮想キャラクターがオブジェクトを見る様子をビデオで示し、その際にキャラクターの視線の持続時間(600msまたは1800ms)と、オブジェクト名のアクセント音節のピッチの高さ(45Hzの高低差)を操作しました。参加者はオブジェクトの重要性を評価し、最後にオブジェクト認識タスクが行われました。
結果として、視線の持続時間が長いほど、またピッチが高いほど、参加者はオブジェクトの重要性を高く評価しました。自閉症の参加者は、短い視線の場合、定型発達のグループより評価が低く、長い視線でピッチが低い場合、評価が高いことが分かりました。参加者は、「視線の持続時間に影響されるグループ(Lookers)」、「ピッチに影響されるグループ(Listeners)」、「どちらにも影響されないグループ(Neithers)」に分類されました。視線の持続時間やピッチの高さにかかわらず、オブジェクト認識能力には差が見られませんでした。
この結果は、自閉症の人々が、他者の精神状態を推測する際に視線の持続時間をより重視することを示しています。