このブログ記事では、発達障害や学習障害、特定の医療や教育的ニーズを持つ子供たちに関する最新の学術研究を紹介しています。自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)を持つ子供たちの実行機能や精神的健康、学校欠席のリスク要因、ADHDの薬物療法に関する電子医療記録の活用、さらにはギフテッドたちの読解能力に関する研究、学習障害を併発した子供たちの実行機能の違いなどについての研究を紹介します。
学術研究関連アップデート
Differences in Executive Functioning for children with additional learning needs and Autism Spectrum Disorder or Attachment Disorder
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)およびアタッチメント障害(AD)を持つ9〜16歳の子供たちの実行機能(EF)に焦点を当て、これらの障害を実行機能の違いで区別できるかを調査しました。79人の学習障害を併発している子供を対象に、臨床診断と心理測定特性、および4つの実行機能課題(WCST、Hungry Donkey、Stroop、Tower of London)で評価しました。結果として、サンプルの25%がASDとADの両方の診断基準を満たし、心理測定評価でも同様の重複が見られました。ASDとADの子供たちの実行機能のパフォーマンスには大きな違いは見られませんでしたが、ADの子供たちは注意の切り替えを要する「冷たい」実行機能タスクでやや良い成績を示し、ASDの子供たちは抑制を要する「熱い」タスクでやや良い成績を示しました。しかし、これらの違いは、学習障害を持つ子供たちにおけるASDとADの診断を区別するためには限定的であると結論付けられました。
Helsmoortel-Van der Aa syndrome in a 13-year-old girl with autistic spectrum disorder, dysmorphism, a right solitary kidney, and polycystic ovaries: a case report - Journal of Medical Case Reports
この論文は、13歳のサウジアラビア人の少女におけるHelsmoortel-Van der Aa症候群(HVDAS)の症例報告です。HVDASは2014年に公式に文書化された非常に稀な複雑な神経変性疾患であり、知的 障害、運動機能障害、顔の異常、自閉症スペクトラム障害(ASD)を伴います。また、注意欠陥多動性障害(ADHD)や不安障害などの神経精神疾患も多く見られます。本症例の患者は、重度の精神遅滞とASD、ADHD、顔の異常を呈しており、初期の遺伝子検査では異常が見つかりませんでしたが、臨床的エクソーム解析により、ADNP遺伝子の病的なde novo変異が特定されました。さらに、右側の単一腎と多嚢胞性卵巣も確認され、これらはHVDASに関連して報告されたことがない特徴です。
Longitudinal Association of Adolescent ADHD Symptoms in the Trajectory of Maternal Depression Symptoms
この論文は、青年期のADHD症状が母親のうつ症状に与える影響を長期的に調査したものです。研究では、12歳から18歳までの子供たちとその母親を対象に、母親が子供のADHD症状と自身のうつ症状を毎年報告しました。分析の結果、ADHDの多動性・衝動性の症状は、母親のうつ症状の初期レベルに有意な関連があり、これらの症状が高いほど、母親のうつ症状も高いことが分かりました。ただし、母親のうつ症状の変化(スロープ)は青年期を通じて一定であり、ADHDの注意欠陥の症状は母親のうつ症状に影響を与えませんでした。この研究は、子供のADHD症状が母親の精神的健康に長期的に影響を 与えることを示唆しており、今後の研究と臨床的な対応の方向性が議論されています。
ADHD and cognitive disengagement syndrome symptoms related to self-injurious thoughts and behaviors in early adolescents
この研究は、注意欠陥多動性障害(ADHD)の症状と認知的脱離症候群(CDS)症状が、早期青年期の自傷的思考および行動(SITBs)とどのように関連しているかを調査しています。10〜12歳の341人の青年(52.2%が女性、37.8%が有色人種)が参加し、保護者がCDSおよびADHDの症状について報告しました。また、青年は評価尺度に回答し、自傷的思考と行動に関するインタビューを受けました。ロジスティック回帰分析の結果、22.9%が自殺念慮、8.2%が自殺計画、6.2%が自傷行為を報告し、16.4%が現在の自殺リスクの臨床基準を満たしていました。CDSスコアが高いほど、自殺念慮や計画のリスクが増加することが示されました。また、ADHDの不注意(IN)および多動性・衝動性(HI)の症状は自傷行為と関連がありましたが、これらの関連は統計的な有意性が低い場合もありました。この研究は、ADHDの有無にかかわらずCDS症状のスクリーニングが重要であることを示し、今後の予防や早期発見、介入に向けたさらなる研究の必要性を強調しています。
Risk and Influencing Factors for School Absenteeism among Students on the Autism Spectrum—A Systematic Review
この系統的レビューでは、自閉症スペクトラムの子供たちにおける学校欠席のリスク要因と影響因子を調査しています。18件の研究が含まれ、個人、親、学校に関連する要因が、学校欠席にどのように関与しているかを評価しました。多くの研究で学校に関連する要因が主なリスクとして特定され、欠席の影響は学業成績にとどまらず、社会的な参加能力にも及ぶことが強調されています。また、研究ギャップが認識され、さらなる調査の必要性が指摘されました。
Sex differences in physiological correlates of affectively driven decision-making behavior in adult ADHD - BMC Psychiatry
この研究は、成人の注意欠陥/多動性障害(ADHD)における性差が、感情的な要因による意思決定行動にどのように影響するかを調査しています。特に、リスクを伴う意思決定と感情的な変化の関連性に焦点を当て、29人のADHD成人(男性16人、女性13人)と33人の対照群(男性14人、女性19人)を対象に、Balloon Analogue Risk Task(BART)を用いた実験を行い、皮膚電気活動の変化を測定しました。
結果として、ADHD女性はADHD男性に比べてリスクを伴う行動をより多く取る傾向がありましたが、この性差は対照群では見られませんでした。女性のADHD患者は、自分の身体反応に対する感度が低く、これが日常生活におけるリスク行動の増加に繋がる可能性があることが示唆されました。この研究は、ADHDにおける性別の違いが、意思決定行動や生理的反応に重要な役割を果たすことを示しています。
Protocols for transitioning to adult mental health services for adolescents with ADHD - BMC Psychiatry
この研究は、イタリアにおけるADHD患者の子どもから大人のメンタルヘルスサービスへの移行に関するプロトコルを分析したものです。研究では、21のADHD支援サービスから6つのプロトコルを収集し、NICE(National Institute for Clinical Health and Excellence)のガイドラインに基づいてその内容を比較しました。分析結果では、全てのプロトコルで「早期の移行計画」や「個別の計画」 が含まれていましたが、年齢基準にはばらつきが見られました。また、「家族の参加」については4つのプロトコル、「モニタリング」は2つ、「トレーニングプログラム」は1つのみが対応していました。全体として、移行プロトコルの質と量に大きなばらつきがあることが明らかになり、標準化の必要性が強調されています。
Autistic-relevant behavioral phenotypes of a mouse model of cyclin-dependent kinase-like 5 deficiency disorder
この論文は、シクロリン依存性キナーゼ様5(CDKL5)欠損症(CDD)のマウスモデルにおける自閉症関連の行動表現型を調査したものです。CDDはX染色体に関連するCDKL5遺伝子の変異によって引き起こされ、早期発症のてんかん、知的障害、自閉症様の特徴を示す神経発達疾患です。CDKL5ノックアウト(KO)マウスは、CDDの主要な症状を再現し、運動、感覚、認知、社会的能力に異常を示しますが、これまでの研究は主に成体マウスに焦点を当てており、発達初期の表現型についてはほとんど知られていません。
この研究では、オスとメス(ヘテロ接合体とホモ接合体の両方)のCDKL5変異マウスを対象に、出生後最初の3週間と成体での自閉症関連行動を評価しました。2週齢で超音波によるコミュニケーションに異常が見られ、成体でも確認 されました。また、3週齢および成体で不安様行動、常同行動、社会的相互作用の減少、記憶障害が観察され、ホモ接合体のメスでより顕著に見られました。
この研究は、CDKL5マウスモデルが自閉症スペクトラム障害やCDDの病理を探るための前臨床研究に有用であることを示しています。
Trajectories of psychological distress for Australian fathers parenting a child on the autism spectrum: Evidence from early childhood to adolescence
この研究は、自閉症スペクトラムの子供を育てるオーストラリアの父親たちの精神的健康の変遷を追ったものです。子供が4歳から14歳になるまでの10年間にわたり、281人の父親の精神的苦痛の状態を追跡しました。目的は、父親の心理的苦痛の推移を報告し、時間とともに異なる心理的苦痛のパターンを特定し、そのパターンに関連する初期リスク要因を明らかにすることでした。
結果として、父親の心理的苦痛には2つのグループが存在することが分かりました。84%の父親は10年間を通じて低レベルの心理的苦痛を経験しており、一方16%の父親は持続的に高レベルの心理的苦痛を経験していました。特に、持続的な医療問題を抱えている父親や、パートナーとの間で高いレベルの親間葛藤がある父親は、心理的苦痛が高いグループに属する可能性が高いことが明らかになりました。
この研究は、子供の幼少期から思春期にかけて、約6人に1人の父親が継続的な心理的苦痛に直面していることを示しており、父親の身体的健康や夫婦関係の改善が長期的に父親の精神的健康に良い影響を与える可能性があることを示唆しています。
2-Ethylhexyl Diphenyl Phosphate Induces Autism Spectrum Disorder-Like Behaviors in Offspring Mice by Disrupting Postsynaptic Development
この研究は、妊娠中のICRマウスに2-エチルヘキシルジフェニルリン酸(EHDPP)を水に溶かして与え、その結果、子マウスに自閉症スペクトラム障害(ASD)に似た行動が現れるかどうかを調査しました。EHDPPは、人体サンプルにも検出されることが多い有機リン系難燃剤であり、その神経毒性が懸念されています。研究の結果、最も高い濃度でのEHDPPへの曝露が、オスとメスの子マウスの両方にASD様行動を誘発することが確認されました。
また、樹状突起スパインの成熟の減少やシナプス後膜の構造的損傷が観察され、これによりシナプス後膜の形成が阻害されていることが示唆されました。メカニズムとしては、EHDPPがDisc large MAGUK scaffold protein 4の発 現を抑制し、タンパク質キナーゼBやインスリン様成長因子1型受容体のリン酸化を阻害することが確認されました。これらの結果から、EHDPPがシナプス後膜の発達を損なうことが、子孫のASD発生率を高める可能性があることが示されました。
Electronic Health Records for Research on Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Pharmacotherapy: A Comprehensive Review
この研究は、注意欠陥/多動性障害(ADHD)の薬物療法に関する電子医療記録(EHR)の使用をレビューしています。ランダム化比較試験(RCT)は、ADHD薬がグループレベルで症状を大幅に軽減することを示していますが、個々の反応は異なります。したがって、治療の予測モデルを構築し、個々の基礎的な臨床データに基づいて治療を最適化することが重要です。EHRデータは、こうした予測モデルの構築に役立つ貴重な情報源となり得ますが、ADHDに関する体系的な情報は不足しています。
このレビューでは、ADHDに関するEHRデータを報告した103件の研究を特定し、そのうち83件が処方された薬に関する情報を提供していましたが、薬の用量、治療期間、治療前後のADHD症状評価を報告している研究は少数でした。結論として、EHRを使用して治療反応の予測モデルを開発する可能性がある一方で、治療関 連データ(症状評価や予測因子)の詳細な報告が必要であると強調しています。
Frontiers | Do gifted children without specific learning disabilities read more efficiently than typically developing children?
この研究では、特定の学習障害を持たないギフテッド(才能のある)子供(GC)が、典型的に発達している子供(TDC)と比較して、読みの能力においてどのような違いがあるかを調査しています。ギフテッドの子供45名を対象に、ウェクスラー知能検査や言語テストを実施し、TDCの標準データと比較しました。結果、GCは、言語理解や速読などの意味のあるテキストを読む能力でTDCよりも優れていることが確認されましたが、無意味なテキストの読みやスペリングの正確さでは、TDCとの有意な差は見られませんでした。GCの読みの能力は異質であり、文脈のある文章では優れたパフォーマンスを示しますが、文脈のない課題ではその優位性が失われることが分かりました。