ASD成人におけるストレス要因と自殺リスクの関係性
このブログ記事では、発達障害や知的障害に関連する最新の学術研究を紹介しています。特に、自閉スペクトラム症(ASD)や発達性協調運動障害(DCD)、知的障害(ID)に焦点を当て、遺伝学的解析や心理的評価、身体活動の測定など多様なアプローチを取り上げています。研究の中には、ASDの本質的な遺伝的基盤を解明するためのエクソーム解析や、DCDを持つ幼児の身体活動特性の分析、またASD成人におけるストレス要因と自殺リスクの関係性を探る研究などが含まれています。
学術研究関連アップデート
Unveiling genetic insights: Array-CGH and WES discoveries in a cohort of 122 children with essential autism spectrum disorder - BMC Genomics
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の中でも他の併存疾患を伴わない「本質的ASD」の遺伝的背景を調査するため、**全エクソーム解析(WES)とアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(array-CGH)**を用いて行われました。対象は122人のASDの子どもたちです。
主な結果:
- 遺伝子変異の検出:
- WESで223の遺伝子にまたがる382の変異を発見。
- array-CGHで46のコピー数変異(CNV)を特定。
- 両手法を組み合わせた結果、4人で病原性のある変異(3.1%)、34人で病原性がある可能性の高い変異(27.8%)が確認されました。
- 合計で31.2%の検出率。
- 新たな発見:
- WESで33の新規変異を発見。そのうち3つが病原性、13が病原性の可能性ありと分類。
- ASDに関連する既知の85の遺伝子に加え、これまでASDと関連付けられていなかった138の新たな候補遺伝子を特定。
結論: この研究は、本質的ASDの遺伝的理解を深め、新たな候補遺伝子を特定しました。WESとarray-CGHを組み合わせることで、病原性や病原性の可能性がある遺伝子変異をより多く検出できることを示し、今後の診断や治療戦略に役立つ知見を提供しています。
Machine learning derived physical activity in preschool children with developmental coordination disorder
この研究は、発達性協調運動障害(DCD)の可能性がある幼児(4~5歳)の身体活動を、典型的な運動発達を示す子どもと比較したものです。研究対象は497人の幼児で、運動評価を行い、加速度計(ActiGraph GT3X)を1週間着用して身体活動を測定しました。機械学習(ランダムフォレスト分類モデル)を用いて、加速度計のデータから活動レベルを解析しました。
主な結果:
- *全体的な身体活動(座っている時間、軽い身体活動、中~高強度の身体活動)**には、発達性協調運動障害(pDCD)やそのリスクがある子どもと、典型的に発達している子どもの間で差は見られませんでした。
- 歩く・走るなどの移動活動では、DCDグループ(リスク含む)の子どもが、典型発達の子どもよりも少ない時間を費やしていました。
- DCDリスクの子どもは、典型発達の子どもに比べて歩行時間が短い(平均3.47分少ない)。
- pDCDの子どもは、典型発達の子どもに比べて走る時間が短い(平均1.82分少ない)。
結論: DCDのリスクがある幼児における特定の身体活動(歩行や走行)の不足は、後の子ども期における身体活動の強度に影響を与える可能性があります。これを踏まえ、運動の種類(歩行や走行)に焦点を当てた介入を設計することで、運動困難を持つ子どもたちの身体活動レベルを改善する手助けができると示唆されています。
Lifetime stressor exposure is related to suicidality in autistic adults: A multinational study
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の成人における**生涯のストレス要因(ストレッサー)**が、**自殺思考や行動(STB)**にどのように関連しているかを調査したものです。イギリスとオーストラリアの226人のASD成人を対象に、生涯のストレッサーとその影響を評価する「Stress and Adversity Inventory for Adults」を用いて分析しました。
主な結果:
- ストレッサーの種類と性別の違い:
- 男性は法的問題や犯罪関連のストレッサーを多く経験。
- 女性は対人関係の問題や屈辱に関連する長期的なストレッサーを多く経験し、それをより深刻に感じる傾向がありました。
- STBとストレッサーの関連:
- 男性では愛する人の喪失がSTBと最も強く関連。
- 女性では身体的に危険なストレッサーがSTBと関連し、さらに閉塞感の少ないストレッサーを経験した女性ほどSTBが高い傾向がありました。
- ストレッサーの影響の認識:
- ストレッサーの深刻さの認識が健康に大きな影響を与え、女性は特にこれを強く感じやすい。
結論: 生涯のストレッサーの種類やその深刻さが、ASD成人における自殺リスクを理解する上で重要であることが示されました。性別によって関連するストレッサーが異なるため、性別に応じた支援や予防策が必要とされています。この研究は、自閉症成人の自殺リスクを減らすためのストレス管理や介入の重要性を強調しています。