メインコンテンツまでスキップ

ASD成人におけるストレス要因と自殺リスクの関係性

· 約15分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、発達障害や知的障害に関連する最新の学術研究を紹介しています。特に、自閉スペクトラム症(ASD)や発達性協調運動障害(DCD)、知的障害(ID)に焦点を当て、遺伝学的解析や心理的評価、身体活動の測定など多様なアプローチを取り上げています。研究の中には、ASDの本質的な遺伝的基盤を解明するためのエクソーム解析や、DCDを持つ幼児の身体活動特性の分析、またASD成人におけるストレス要因と自殺リスクの関係性を探る研究などが含まれています。

学術研究関連アップデート

Unveiling genetic insights: Array-CGH and WES discoveries in a cohort of 122 children with essential autism spectrum disorder - BMC Genomics

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の中でも他の併存疾患を伴わない「本質的ASD」の遺伝的背景を調査するため、**全エクソーム解析(WES)アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(array-CGH)**を用いて行われました。対象は122人のASDの子どもたちです。

主な結果:

  1. 遺伝子変異の検出:
    • WESで223の遺伝子にまたがる382の変異を発見。
    • array-CGHで46のコピー数変異(CNV)を特定。
    • 両手法を組み合わせた結果、4人で病原性のある変異(3.1%)、34人で病原性がある可能性の高い変異(27.8%)が確認されました。
    • 合計で31.2%の検出率。
  2. 新たな発見:
    • WESで33の新規変異を発見。そのうち3つが病原性、13が病原性の可能性ありと分類。
    • ASDに関連する既知の85の遺伝子に加え、これまでASDと関連付けられていなかった138の新たな候補遺伝子を特定。

結論: この研究は、本質的ASDの遺伝的理解を深め、新たな候補遺伝子を特定しました。WESとarray-CGHを組み合わせることで、病原性や病原性の可能性がある遺伝子変異をより多く検出できることを示し、今後の診断や治療戦略に役立つ知見を提供しています。

Machine learning derived physical activity in preschool children with developmental coordination disorder

この研究は、発達性協調運動障害(DCD)の可能性がある幼児(4~5歳)の身体活動を、典型的な運動発達を示す子どもと比較したものです。研究対象は497人の幼児で、運動評価を行い、加速度計(ActiGraph GT3X)を1週間着用して身体活動を測定しました。機械学習(ランダムフォレスト分類モデル)を用いて、加速度計のデータから活動レベルを解析しました。

主な結果:

  • *全体的な身体活動(座っている時間、軽い身体活動、中~高強度の身体活動)**には、発達性協調運動障害(pDCD)やそのリスクがある子どもと、典型的に発達している子どもの間で差は見られませんでした。
  • 歩く・走るなどの移動活動では、DCDグループ(リスク含む)の子どもが、典型発達の子どもよりも少ない時間を費やしていました。
    • DCDリスクの子どもは、典型発達の子どもに比べて歩行時間が短い(平均3.47分少ない)。
    • pDCDの子どもは、典型発達の子どもに比べて走る時間が短い(平均1.82分少ない)。

結論: DCDのリスクがある幼児における特定の身体活動(歩行や走行)の不足は、後の子ども期における身体活動の強度に影響を与える可能性があります。これを踏まえ、運動の種類(歩行や走行)に焦点を当てた介入を設計することで、運動困難を持つ子どもたちの身体活動レベルを改善する手助けができると示唆されています。

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の成人における**生涯のストレス要因(ストレッサー)**が、**自殺思考や行動(STB)**にどのように関連しているかを調査したものです。イギリスとオーストラリアの226人のASD成人を対象に、生涯のストレッサーとその影響を評価する「Stress and Adversity Inventory for Adults」を用いて分析しました。

主な結果:

  1. ストレッサーの種類と性別の違い:
    • 男性は法的問題や犯罪関連のストレッサーを多く経験。
    • 女性は対人関係の問題屈辱に関連する長期的なストレッサーを多く経験し、それをより深刻に感じる傾向がありました。
  2. STBとストレッサーの関連:
    • 男性では愛する人の喪失がSTBと最も強く関連。
    • 女性では身体的に危険なストレッサーがSTBと関連し、さらに閉塞感の少ないストレッサーを経験した女性ほどSTBが高い傾向がありました。
  3. ストレッサーの影響の認識:
    • ストレッサーの深刻さの認識が健康に大きな影響を与え、女性は特にこれを強く感じやすい。

結論: 生涯のストレッサーの種類やその深刻さが、ASD成人における自殺リスクを理解する上で重要であることが示されました。性別によって関連するストレッサーが異なるため、性別に応じた支援や予防策が必要とされています。この研究は、自閉症成人の自殺リスクを減らすためのストレス管理や介入の重要性を強調しています。

Behavioral manifestations of executive functioning in Swedish youth with ADHD, autism, and psychiatric comorbidity: a comparative analysis with community controls

この研究は、スウェーデンの青年期における発達障害(NDD、ADHDや自閉スペクトラム症など)を持つ若者の実行機能(EF)の行動的側面を調査し、精神的な併存疾患や複数の発達障害(dual NDD)がEFに与える影響を明らかにすることを目的としています。研究では、**実行機能行動評価スケール(BRIEF-2)**の親用フォームを使用して評価しました。

主な結果:

  1. NDDグループと他のグループの比較:
    • NDDの若者は、精神的な併存疾患の有無に関わらず、EF全体の行動的側面で有意に低いスコアを示しました。
    • NDDを持たない精神疾患(例:不安症)の若者や健常なコントロールグループと比べても、大きな差が見られました。
    • 特に「シフト(注意やタスクの切り替え)」領域で最も大きな影響が確認されました(効果量Cohen's d = 0.94)。
  2. NDDのみとNDD+精神疾患併存グループの比較:
    • 意外なことに、NDDのみの若者と、NDDに精神疾患が併存する若者との間に有意な差は見られませんでした。
  3. 単一のNDDと複数のNDDを持つ若者の比較:
    • 複数のNDDを持つ若者は、単一のNDDを持つ若者と比べて、9つのEF領域のうち4つでより多くの問題を抱えていました。
    • この中でも「シフト」領域で最も大きな差が確認されました(効果量Cohen's d = 0.91)。

結論: 発達障害(NDD)は、親によって評価されたEFの行動的欠陥において重要な役割を果たしており、その他の精神疾患の診断に関係なく、EFの問題を特徴づける要因であることが示されました。この研究は、NDDを持つ若者に対する支援や介入の必要性を強調するとともに、特に「シフト」のような特定のEF領域に注目した支援が有効である可能性を示唆しています。

Measuring Depressive Symptoms in Individuals with Autism Spectrum Disorders (ASD): A Scoping Review

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の人々におけるうつ症状を測定するための評価ツールについて調査したものです。ASDの人々には一般的なうつの評価ツールや、ASD特有のうつ症状を測るツールが使われていますが、うつ症状がASDでは異なる形で現れることもあり、これらのツールがどの程度信頼性や妥当性を持つかを評価することが重要です。

主な結果:

  1. 評価ツールの種類:
    • 一般的なうつ症状評価ツールと、ASD特有の症状を対象とした評価ツールの両方が使用されています。
  2. 信頼性と妥当性:
    • 両方のタイプのツールにおいて、心理測定学的特性(信頼性や妥当性)は中程度であることが確認されました。
    • これらのツールは診断の補助には有用であるものの、単独での使用には十分ではない可能性があります。
  3. 研究の限界:
    • 各ツールに関する研究数は1~3本程度と少なく、評価された心理測定学的特性の範囲も限られているため、データの制約が指摘されています。

結論: ASDの人々にはうつのリスクが高いため、信頼性と妥当性の高い評価ツールが必要です。現行のツールにはある程度の支持があるものの、より多くの研究を通じて改善や検証が進められることが求められています。この研究は、ASDに特化したより包括的なうつ症状評価ツールの必要性を強調しています。

Proband‐Only Exome Sequencing for Intellectual Disability in Iran: Diagnostic Yield and Genetic Insights

この研究は、イランの知的障害(ID)を持つ患者を対象に、プロバンド単独エクソーム解析を用いて遺伝的要因を調査した初の研究です。イランでは近親婚の割合が高いことが知られており、この研究では、99人のID患者を対象に8年間にわたり解析が行われました。

主な結果:

  1. 診断率:
    • プロバンド単独エクソーム解析により、43の病原性/可能性が高い病原性の遺伝子変異が40人の患者から特定され、診断率は40.4%に達しました。
    • さらに、染色体コピー数変異(CNV)の解析を追加することで診断率は45.4%に向上。
    • 親子検査により5つの新生変異が発見され、最終的な診断率は50.5%に達しました。
  2. 遺伝的要因:
    • 高い診断率は、イランの人口における近親婚の普及と、新生変異が比較的少ないことに起因すると考えられます。

結論: プロバンド単独エクソーム解析は、IDの遺伝的診断において費用対効果の高い手法であり、特に近親婚が多い地域では有用性が高いと示されています。この研究は、イランでのID患者の診断や治療において重要な知見を提供するとともに、将来的な遺伝学的アプローチの発展に寄与する可能性を示唆しています。