行動スキルトレーニングを用いたDTT研修の効果
この記事では、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)、知的および発達障害(IDD)を持つ子どもや若者に関連する多様な研究を紹介しています。これらの研究は、技術デバイスの利用に関する親の意識や選好、マインドフルネスの介入効果、ASDの診断や特別支援教育における人種間格差、社会的スキル評価ツールの信頼性、社会的困難と向社会的行動の性別・年齢による違い、乳児期の栄養とADHD発症リスクとの関連、保護者や教師の評価と客観的テストの一致度、そして行動スキルトレーニングによるスタッフ教育の効果など、多岐にわたるトピックをカバーしています。
学術研究関連アップデート
The Knowledge and Preferences of Parents/Carers of Autistic Children and Young People about Technology Devices
この研究では、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもや若者を支援するための技術デバイスに関する親や介護者の知識、興味、選好を調査しました。267名の親や介護者を対象にアンケートを実施し、スマート フォン、iPod、タブレット、バーチャルリアリティ(VR)、ロボットなどのデバイスに対する意見を収集しました。結果として、多くの親がタブレットを便利で使いやすいとして最も好む一方、VRやロボットは高価で持ち運びが不便、また冷たく感じられるという理由で敬遠される傾向がありました。特にロボットは多くの親にとって未知の存在でした。研究は、支援プログラムにおける技術デバイスの認知度向上や、経済的でデザインの優れた製品の必要性を指摘しています。また、ASD当事者自身の視点や意見を取り入れるさらなる研究の重要性が強調されています。
The Effectiveness of a Mindfulness-Based Program in Improving Cognitive and Socio-Affective Skills Among Adolescents with Intellectual and Developmental Disabilities: A Randomized Controlled Study
この研究は、知的および 発達障害(IDD)のある16歳の若者を対象に、8週間のマインドフルネスプログラムが認知能力や感情、社会的行動に与える影響を調べました。45人の参加者をランダムに3つのグループ(マインドフルネスグループ、身体活動グループ、対照グループ)に分け、注意力、記憶力、ストレス、自尊感情、社会的行動を8週間前後で測定しました。
主な結果
- 向上が見られた項目:
- 持続的注意力
- 視空間ワーキングメモリ
- ストレス管理
- 社会的行動
- 変化が見られなかった項目:
- 言語的ワーキングメモリ
- 全体的な自尊感情
マインドフルネスプログラムは、認知や社会的スキルの向上に効果があることが示され、特に学校環境での導入が有望であると結論付けられました。この研究は、IDDを持つ若者に対する低コストで効果的な介入方法として、マインドフルネスの可能性を示しています。
Racial Disproportionality in Autism Over 20 Years: What It Means for Special Education Disability Classifications
この研究は、過去20年間における自閉スペクトラム症(ASD)の人種・民族間の格差について調査し、特別支援教育におけるASDの分類にどのような影響があるかを分析しました。データは、3つの全国長期移行研究(NLTS)から収集されたもので、時間の経過とともにASDと診断された学生が特別支援教育の中で他の障害カテゴリーに分類される傾向や、その変化が人種・民族によって異なることを明らかにしました。
主な結果
- 特別支援教育の分類:
- ASDと診断されていても、他の支援カテゴリー(例: 他の健康障害、知的障害、言語障害、感情障害)に分類されるケースが多い。
- 人種・民族間の格差:
- ASDの分類や教育ラベルにおいて、人種・民族間で顕著な違いが見られる。
- ASDの真の有病率が特別支援教育の分類によって正確に反映されていない可能性がある。
結論
この研究は、特別支援教育における障害の分類メカニズムがASDの正確な有病率を歪める要因になり得ることを示唆しています。また、人種・民族間の不均衡を是正し、より公平な教育支援を提供するためには、教育現 場での障害分類プロセスを見直す必要があると結論付けています。
The Persian Version of the Emotion Regulation and Social Skills Questionnaire: Psychometric Properties for Young People with Autism Spectrum Disorders
この研究は、**自閉スペクトラム症(ASD)を持つ若年層の情動調整と社会的スキルを評価するためのアンケート(ERSSQ)**のペルシャ語版の信頼性と妥当性を検証しました。対象は、イランのペルシャ語を話す7~14歳のASDの子ども108人と、その親や教師、および同数の典型発達の子どもたちです。
主な結果
- 信頼性と妥当性:
- アンケートの内容妥当性指数(CVI)は、親版(ERSSQ-P)で0.92、教師版(ERSSQ-T)で0.88と高い値を示しました。
- 内的整合性(信頼性)は、ERSSQ-Pで0.95、ERSSQ-Tで0.70と、いずれも十分な基準を満たしていました。
- 実用性:
- ERSSQ-PとERSSQ-Tは、情動調整と社会的スキルの評価において有効であり、簡便で費用対効果の高いツールとして利用可能です。
結論
ペルシャ語版ERSSQは、イランにおけるASDの子どもや青年の情動調整や社会的スキルを評価するための信頼性と妥当性を持つ評価ツールとして有用であり、臨床および研究の場で活用できると結論付けられています。
Peer Problems and Prosocial Behavior Among Icelandic Children and Adolescents with ADHD and/or Autism: Gender and Age Differences
この研究は、アイスランドのADHDおよび自閉スペクトラム症(ASD)の子どもや青年における**社会的困難(Peer Problems)と向社会的行動(Prosocial Behavior)**の性別や年齢による違いを調査しました。対象は、5~18歳の2132人(男児65%、女児35%)で、親と教師によ る評価を用いました。
主な結果
- ASDとADHDの違い:
- ASDまたはASDとADHDを併発する子どもは、同年代のADHDのみの子どもよりも多くの社会的困難を経験し、向社会的行動が少ない傾向がありました。
- 性別の違い:
- 女児は男児よりも多くの社会的困難を経験し、向社会的行動が少ないと報告されました。
- 年齢と性別の相互作用:
- 若年の女児は、年長の女児よりも社会的困難が多く、向社会的行動が少ないことが教師から報告されました。
- 一方で、男児は年齢に関係なく似たような社会的困難を経験していました。
結論
この研究は、神経発達症を持つ子どもたちにおける社会的困難と向社会的行動の性別と年齢の違いを明らかにしました。特に女児には若年期に特有の課題があり、男児とは異なる発達パターンを示しています。これらの結果は、性別や年齢に応じた適切な介入や支援の必要性を強調しています。
Association between infant feeding and ADHD development in childhood: a birth cohort study in Taiwan
この研究は、乳児期の授乳や補完食(離乳食)が**注意欠如・多動症(ADHD)**の発症リスクに与える影響を調査したものです。台湾出生コホート研究(2005-2011年)から得られた19,721組のデータを用いて、乳児期の食事習慣とADHD発症の関係を54か月間追跡しました。
主な結果
- ADHD発症率:
- 観察期間中、207人の乳児がADHDを発症し、推定累積発症率は1,000人年あたり5.56件でした。
- 授乳期間:
- 平均授乳期間は約2か月でしたが、授乳期間とADHD発症リスクの間に有意な保護効果は確認されませんでした。
- 補完食の影響:
- 米を主成分とした固形補完食はADHD発症のリスクを低下させる(ハザード比HR = 0.73)ことが確認されました。
- ADHDリスクを高める要因:
- 男児、低所得家庭、低出生体重、母親の高齢、乳児の消化器疾患やけいれん、母親の心臓病、父親の糖尿病などがリスク要因として挙げられました。
結論
- 6か月以内の適切な補完食の導入は、ADHDの発症リスクを低下させる可能性があります。
- 一方で、授乳そのものの保護効果は他のリスク因子を調整した場合には確認されませんでした。
- ADHD発症例が少ないことなど研究の限界もあるため、今後はより長期間の観察データを用いた研究が必要です。
この研究は、乳児期の栄養管理が神経発達やADHDリスクに与える影響を理解する上で重要な知見を提供しています。
Agreement Between Mother, Father, and Teacher Ratings of Academic, Cognitive, and Writing Problems and Comparison With Objective Test Scores in Children With Autism and Children With ADHD
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)または注意欠如・多動症(ADHD)を持つ6~16歳の子どもについて、母親、父親、教師が評価した学業、認知、書字の問題が客観的なテスト結果とどの程度一致するかを分析しました。
主な結果
- 評価の一致度:
- 母親、父親、教師の評価間で有意な相関が見られたが、完全な一致はせず。
- 母親の評価が最も高く、母親と父親の評価の一致度が最も良かった。
- 母親-教師間、父親-教師間の一致度は低かった。
- 客観的テストとの関係:
- 学業、IQ、書字スキルのテストスコアとの相関は有意であったが、問題がある/ないとされた子どもの一致度は低かった。
- 過剰な問題の指摘:
- 親や教師は客観的なテストスコアに比べ、より多くの子どもに問題があると評価する傾向があった。
結論
評価者による違いがあるため、複数の情報源を統合し、専門的な教育・臨床スタッフが精査することが重要です。これにより、子どもに適切な支援を提供するための教育的および診断的情報が得られます。この研究は、家庭と学校での観察が重要である一方、客観的テストも合わせて活用する必要性を示しています。
The Use of Behavioral Skills Training to Teach Staff Discrete Trial Teaching
この研究は、**行動スキルトレーニング(Behavioral Skills Training, BST)を用いて、新しく雇用されたスタッフに離散試行教授法(Discrete Trial Teaching, DTT)**を正しく実施する方法を教える効果を評価したものです。
主なポイント
- 目的:
- DTTに未経験のスタッフに対し、BSTを使ってDTTスキルを習得させる効果を検証。
- 動画を用いた短時間のモデルをBSTに取り入れ、効率的な指導法を検討。
- 研究デザイン:
- 非同時性多基線デザインを使用。
- 介入終了後7日間、スキルの維持を評価。
- 結果:
- BSTは、新しいスタッフにDTTを教える上で効果的であることが確認された。
- エラー修正ステップを細分化することで、より正確なスキル習得データを得られた。
- BSTの手法は、参加者や評価者から高い社会的妥当性(受け入れやすさ)が示された。
- 議論:
- 課題のステップ数や参加者 の学習プロファイルがDTTスキルの正確な実施に与える影響を考察。
- 参加者のエラー発生パターンにも注目。
結論
この研究は、BSTがDTTスキルの習得に効果的であることを再確認し、特に未経験者向けのトレーニングに有用であることを示しました。また、エラー修正を細分化することでより効率的な指導が可能になることが分かり、DTTを教えるための新しい視点が提供されました。この手法は、行動分析プログラムにおけるスタッフ教育の質向上に役立つと考えられます。