SENの子どもの心の健康を支える自由遊びとマインドフルネスの効果
このブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、特別支援教育(SEN)などの発達障害や知的障害に関する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、ASDの子どもにおける音声処理や社会行動の発達メカニズム、ADHDに関連する実行機能とマインドワンダリングの関係、SENの子ども の心の健康を支える自由遊びとマインドフルネスの効果、IDD成人の医療格差改善の取り組みなど、多岐にわたる研究が取り上げられています。
学術研究関連アップデート
Attenuated processing of vowels in the left temporal cortex predicts speech-in-noise perception deficit in children with autism - Journal of Neurodevelopmental Disorders
この研究では、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちが「ノイズのある環境での言葉の聞き取り」に苦労する理由を調べました。人間の音声の基本的な構成要素である母音(「あ」「い」など)の処理に関する脳の働きに着目し、脳波(MEG)を使ってその違いを測定しました。結果として、ASDの子どもたちでは、母音を「音声のまとまり」として認識する脳の反応が弱く、特に左脳の音声処理に関連する部分でこの反応が低下していることが判明しました。この低下は、一定のリズムを持つノイズ環境(例えば人混みや自然音など)での言葉の聞き取り困難と関連していました。この研究は、ASDの子どもたちが特定の環境で言葉を理解しづらい原因を脳の働きから明らかにしたものです。
A Review of the Environmental Variables Included in Mand Training Interventions
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)やその他の障害を持つ子どもたちにとって、欲しいものや必要なものを伝えるスキル(「マンド」と呼ばれる行動)の指導方法について調査したものです。マンドは生活の質に大きな影響を与える重要なスキルですが、その指導は複雑で、様々な方法が提案されています。この論文では、45の研究に基づいて、幼児を対象としたマンド指導法の共通点と欠点を整理しました。
主な結果として、多くの研究では子どもが好むものを選ぶ「選好評価」を行い、動機づけの操作を調整し、マンドが行われた後に具体的な強化(ご褒美)を与えていました。一方で、行動のサインや、異なる状況(欲しいものが手に入らない時や不要な時)の指導、マンド後の結果とのやり取りについては十分に観察されていないという課題も明らかになりました。
結論として、効果的なマンド指導法の要素を特定するには、さらに多くの研究が必要であるとしています。この研究は、より効率的で効果的な指導方法を設計するためのヒントを提供しています。
Effects of a SWELE program for improving mental wellbeing in children and adolescents with special educational needs: protocol of a quasi-experimental study - BMC Pediatrics
この研究は、特別な支援を必要とする子どもや青年(SEN)の心の健康を改善するために、自由な外遊びとマインドフルネスの実践を組み合わせたプログラム「SWELE」の効果を調査するものです。香港の特別支援学校で行われ、参加者は16週間にわたり、自由に走ったりジャンプしたりする外遊びや、木登りや水遊びなどの活動を通じて、ルールに縛られない創造的な遊びを楽しみます。また、マインドフルネスを取り入れることで、心の安定や感情のコントロールを促します。
プログラムには、教師や保護者、学校スタッフも参加し、子どもたちを支える環境作りを目指します。効果を測るために、実施前後で子どもたちの気分、不安、社会性、遊びの様子を観察し、さらに関係者へのインタビューを行います。この研究は、自由な遊びと心のケアを組み合わせた新しい方法が、SENの子どもたちの心の健康を向上させる可能性を探るものです。
Health problems in children with profound intellectual and multiple disabilities: a scoping review
この研究は、重度の知的障害と運動障害を持つ子どもたち(PIMD)の健康問題について調査し、その種類や特徴を整理したものです。対象となった22の研究から、PIMDの子どもたちに最も多く見られる健康問題として、てんかん、呼吸器感染症、摂食困難、胃食道逆流症(GERD)、脊柱側弯症、視覚障害が挙げられました。しかし、これらの問題を一貫して取り扱った研究は少なく、PIMDの定義や用語にも統一性がないことが指摘されています。
結論として、PIMDの子どもたちに対する医療ケアを最適化し、生活の質を向上させるためには、健康問題の早期発見と適切な治療が重要です。また、これらの健康問題の発症時期や効果的な治療法に関するさらなる研究が必要とされています。
Emotional and Behavioral Impacts of the February 6, 2023 Earthquake on Children with Autism Spectrum Disorder: An Evaluation from the Parental Perspective
この研究は、2023年2月6日の地震が自閉スペクトラム症(ASD)の子どもとその親に与えた感情的・行動的な影響を調査したものです。特別支援教育施設に通うASDの子ども21人の親を対象に半構造化インタビューを行い、親の体験や子どもの反応を分析しました。
結果として、子どもの反応(身体的、行動的、感情的な影響)と、親の地震体験と対処法という2つのテーマが浮かび上がりました。地震は子どもたちに大きなストレスを与え、親たちは感情のコントロールや子どもの教育・社会生活の維持に苦労しました。
研究は、災害時にASDの子どもとその家族を支援するために、複数の専門分野が協力した支援プログラムの重要性を強調しています。このような包括的なプログラムは、感情面、社会面、身体面の課題に対応するための効果的な解決策を提供します。
Experiences of mothers of children with and without Special Educational Needs (SEN) in England during the COVID-19 lockdowns: a qualitative study
この研究は、COVID-19パンデミック中のロックダウン期間における、イングランドの特別支援教育(SEN)の必要な子どもとそうでない子どもの母親の体験を比較したものです。5~12歳の子どもを持つロンドン在住の母親22人へのインタビューを基に分析し、4つのテーマを導き出しました:機会、課題、パンデミック後の考慮事項、対処戦略です。
主な結果として、SENの子どもの母親は、支援サービスの不足や心の健康の悪化など、特有の課題を多く挙げました。一方、対処戦略として、変化への適応や新しいルーチン作りに重点を置き、自分や子どものために精神的な支援サービスをより頻繁に利用していました。また、すべての母親がパンデミック後の将来への不安を共有していました。
研究は、SEN家庭のニーズに合わせた強固なメンタルヘルス支援や個別支援の重要性を強調しています。今後の研究では、SEN家庭への長期的な支援メカニズムの開発や、より多様な対処戦略の調査が求められています。
A comparison of two dynamic assessment situations for detecting development language disorder in monolingual and bilingual children
この研究は、単一言語を話す子どもと、バイリンガルの子ども(フランス語とポルトガル語)の発達性言語障害を診断するために、2つの動的評価方法を比較しました。動的評価は、子どもの学習の可 能性を直接テストすることで、言語への接触不足と発達性言語障害を区別する方法です。
2つの評価方法は、自律的なコンピュータゲームと、段階的なヒントを含む対話型の読み聞かせです。テストでは、名詞や動詞、文法構造の理解(絵の選択や文法判断)と表現(記憶からの再生や絵を見て単語を言う)の課題が含まれました。
49人の5~7歳の子どもを対象にした結果、対話型の評価方法で行われた理解タスクが特に効果的で、発達性言語障害を非常に正確に診断できることが分かりました(感度100%、特異度96%)。また、バイリンガルの子どもも単一言語の子どもも同じ精度で評価できることが確認されました。
この研究は、言語障害の診断において、特にバイリンガルの子どもに対しても、動的評価が有望であることを示しています。特に、段階的なヒントを取り入れた対話型の評価方法が有効であるとされています。
The State of Medical Care for Adults With Intellectual and/or Developmental Disabilities
この論文は、知的および発達障害(IDD)のある成人の医療状況について検討しています。過去20年以上、IDDを持つ成人は必要な医療を受けにくい状況が続いており、健康状態の改善もほとんど進んでいません。その背景には、医療従事 者の教育不足があり、多くの医科大学や医療専門教育課程では、IDD成人に関するカリキュラムがほとんど含まれていないため、医療提供者が適切なケアを提供する準備が整っていない現状があります。
また、公的および民間の医療政策や財源がIDD成人の医療ニーズに対応しておらず、COVID-19パンデミックではIDD成人が非IDD成人に比べてはるかに高い罹患率と死亡率を記録しました。
論文では、21世紀以降に開発されたIDD成人向けの医療モデルをいくつか紹介し、障害を持つ人々への適切な医療提供を妨げている障壁を取り上げています。また、メディケイドの管理医療(Medicaid Managed Care)が、長年の財政や医療提供の課題を解決する可能性についても言及しています。
この研究は、IDD成人がより良い医療を受けるためには、教育、政策、資金面での改革が不可欠であることを示しています。
Cost-effectiveness of a Low-cost Educational Messaging and Prescription-fill Reminder Intervention to Improve Medication Adherence Among Individuals With Intellectual and Developmental Disability and Hypertension
この研究は、知的および発達 障害(IDD)を持ち、高血圧を抱える成人を対象に、教育メッセージと処方薬のリマインダーを活用して服薬の遵守率を改善する低コストの介入方法の費用対効果を検証したものです。IDDの成人は高血圧の割合が一般人口と同じくらい高いですが、服薬の遵守率が50%と低く、一般的な30%よりも悪いことが課題とされています。
研究には、南カリフォルニアのメディケイド登録者412人とその支援者が参加しました。介入費用は1人あたり26.10ドルで、健康関連支出の削減効果として、1人あたり平均で全支払者ベースで1008.02ドル、メディケイドベースで1126.42ドルを節約できることが確認されました。特に、介入前に緊急部門や入院サービスを頻繁に利用していた人々で、コスト削減が顕著でした。
結果として、この介入はコストを削減できることが示され、保険者が事前に高コストになる可能性の高いメンバーを特定して効果的に支援を提供する方法として有望であることがわかりました。
Innovation in Medical Education on Intellectual/Developmental Disabilities: Report on the National Inclusive Curriculum for Health Education-Medical Initiative
この論文は、知的およ び発達障害(IDD)のある患者への医療提供における医師の教育不足が、健康格差の主な原因の1つであることを指摘し、それを改善するための取り組みを紹介しています。2016年にアメリカ発達医療歯科学会が始めた「NICHE-MED(National Inclusive Curriculum for Health Education-Medical)」というイニシアチブは、医療教育の中でIDDに関するカリキュラムを充実させることを目的としています。
このプログラムの目標は次の3点です:
- 医学生の障害に対する態度や知識を改善し、潜在的なエイブルイズム(障害者への偏見)を解消する。
- 健康の公平性や交差性(複数の差別や不平等が交差する状況)を考慮した視点を導入し、IDDの人々を中心にしつつ、他の障害や少数派集団が直面する課題についても学ぶ機会を提供する。
- 地域と連携した教育を通じて、コミュニティ参加型の学問的取り組みを支援する。
2024年現在、NICHE-MEDには約40の医科大学が参加しており、それぞれが地域と連携した障害教育プログラムを実施しています。これらは厳密な評価基準に基づき、全体のプログラム評価と連携しています。この取り組みは、障害者に焦点を当てた包括的なカリキュラム改革の成功例として、他の社会的に疎外された集団への教育にも応用可能であることを示しています。
Unraveling the relationship between executive function and mind wandering in childhood ADHD
この研究は、注意欠如・多動症(ADHD)のある子どもたちにおける**実行機能(EF)とマインドワンダリング(注意がタスクから離れ、無関係な思考に向かう現象)**の関係を調査しました。ADHDの子ども47人と、以前の研究で得られた典型的な発達をしている子ども47人のデータを比較し、3つのEF関連タスクを実施しながら、タスクに集中しているかマインドワンダリングしているかを自己報告してもらいました。
主な結果:
- ADHDの子どもでは、短期記憶能力が高いほどマインドワンダリングの頻度が低いことが分かりました。同様に、作業記憶能力と注意欠如の症状にも関連が見られました。
- ADHDの子どもは、全体的なマインドワンダリングと無意識的なマインドワンダリングが典型的な発達をしている子どもよりも多いと報告しました。
- ただし、EFとマインドワンダリングの関係自体は、ADHDの子どもとそうでない子どもで違いは見られませんでした。
この研究は、記憶に関連する認知能力がマインドワンダリングの理解や管理に役立つ可能性を示しています。これにより、注意の調整を支援する介入法の開発に繋がる可能性があるとしています。
Frontiers | Developmental Regression of Novel Space Preference in an Autism Spectrum Disorder Model is Unlinked to GABAergic and Social Circuitry
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のマウスモデルを用いて、ASDの特徴的な行動である「新しい空間への興味」の発達がどのように変化するかを調べたものです。研究では、Y迷路を改良した「V-Yテスト」を使い、隠された空間が後から現れる状況でマウスの探索行動を観察しました。
主な結果は以下の通りです:
- ASDモデルのマウス(FOXG1遺伝子に異常がある)では、3週齢では新しい空間への興味が見られたものの、6週齢になるとその興味が失われた(「発達の退行」が観察されました)。
- この新しい空間への興味は、GABA神経回路の異常(Gad2遺伝子変異)による影響を受けませんでした。一方で、社会行動にはGABA神経回路が大きく関与していることが確認されています。
結論として、この研究は、新しい空間への興味と社会行動が異なる発達経路をたどることを示しており、ASDの異なる側面を理解するための新しい手がかりを提供しています。この発見は、ASDの症状を理解し、それに対処する方法を考える上で重要な知見となります。