このブログ記事は、発達障害や福祉に関連する最新の研究やビジネスの動向を網羅的に紹介しています。研究面では、ADHDやASD(自閉症スペクトラム障害)を持つ個人における治療法や支援の効果、睡眠障害や実行機能の影響、医療現場でのコミュニケーション支援、適応機能の予測因子、社会的注意に関する仮説検証など、多岐にわたるテーマが取り上げられています。ビジネス面では、AIを活用した福祉分野の効率化に取り組む大学発ベンチャー企業の子会社化事例が紹介され、DX(デジタルトランスフォーメーション)による福祉事業の進展が強調されています。
ビジネス関連アップデート
AHCグループ:大学発ベンチャーを子会社化、福祉分野で生成AIを活用
AHCグループは、福祉・介護・外食事業を展開する企業で、2024年11月15日に神奈川県立保健福祉大学発ベンチャーの株式会社パパゲーノを完全子会社化することを発表しました(株式譲渡日は12月1日)。パパゲーノは精神障害や発達障害の利用者支援を専門とし、**生成AI(ChatGPT)**を活用して福祉分野の業務効率化を支援する「AI支援さん」を開発・導入しています。
パパゲーノは、2024年6月にAHCグループと資本業務提携を締結し、就労継続支援B型事業所にDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを導入。成果が認められたことで完全子会社化に至りました。
学術研究関連アップデート
Predictors of Methylphenidate response in children and adolescents with ADHD: the role of sleep disturbances
この研究は、ADHDを持つ子どもや青年において、睡眠障害(SD)がメチルフェニデート(MPH)治療の効果に与える影響を調査しました。43名のADHD患者にMPHを単回投与し、投与前後で注意力を評価した結果、MPHは注意力を改善することが確認されました。特にSDが高い患者では、反応時間の変動(VRT)の安定化が顕著で、MPHの治療効果が大きいことが示されました。また、外在化問題やIQなどの他の要因がSDと相互作用し、MPHの効果に影響を与えることも明らかになりました。この結果は、SDの早期検出や認知的・情動的特徴の評価が、MPH治療の効果を予測する上で重要であることを示しています。ただし、SDや他の要因がMPHの長期的な効果に与える影響をより深く理解するためには、さらなる研究が必要とされています。
Using an Instructional Package to Support Adults with Autism in Communicating with a Medical Provider
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ成人が医療提供者とのコミュニケーションを改善し、適切なケアを受けやすくするための指導パッケージの効果を検証しました。パッケージには、以下が含まれます:
- ビデオモジュールとガイドノート:診察前に適切な配慮事項を特定し準備する方法を学ぶ。
- 自閉症医療配慮ツール(AHAT):配慮事項を文書化するツール。
- 行動スキルトレーニング(BST):医師に自分のニーズや配慮事項を伝える練習。
3名の参加者がビデオモジュールを自主的に視聴し、AHATを使って診察の準備を行い、BSTを通じてニーズを口頭で伝える訓練を受けました。結果として、参加者のコミュニケーションスキルが 向上し、新たな医療提供者にも適用可能であることが確認されました。また、指導パッケージが終了した後もスキルは維持されました。この介入法は、ASDを持つ成人の医療現場でのコミュニケーションを改善する効果的で社会的に妥当な方法であると示されました。研究の意義や今後の課題も議論されています。
Longitudinal Predictors of Adaptive Functioning in Emerging Adults with and without Autism Spectrum Disorder
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の有無にかかわらず、青年期から成人期への適応機能に影響を与える予測因子を調査しました。ASDの診断、併存する精神病理症状、実行機能(EF)の困難が適応機能に与える長期的な影響を分析しました。
66名(ASD診断者26名、非診断者40名)が、平均年齢11.8歳でのベースライン評価と約10年後(平均年齢21.4歳)の追跡調査を受けました。適応機能は、家族、仕事、学校、生活スキル、自己概念、社会活動、リスク行動などを評価する自己報告尺度「Weiss Functional Impairment Rating Scale(WFIRS)」で測定されました。
結果として、ASD診断者の46%が独立生活を営み、75%が友人を持ち、71%が就労または教育を受けていましたが、適応機能は非診断者より有意に低いことが示されました(WFIRS総ス コア、Hedges' g = 0.92)。また、児童期から青年期のEFの困難は、成人期の適応機能の低下を予測し、ASD診断や併存症状の影響を上回る重要な因子であることが判明しました。
この結果は、EFの課題に焦点を当てた介入が、ASDを持つ人々の長期的な適応機能の改善に役立つ可能性を示唆しています。
Evaluation of the Social Attention Hypothesis: Do Children with Autism Prefer to See Objects Rather than People?
この研究は、自閉症の子どもが社会的な刺激(他者)よりも物に注意を向ける傾向があるという「社会的注意仮説」を検証することを目的としました。自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ子ども53人と定型発達(TD)の子ども74人(18~36か月)が、物の有無による2つの条件下で社会的相互作用を示す動画を視聴しました。
結果として、ASDを持つ子どもはTDの子どもと比べて社会的注意に違いが見られましたが、環境にある物の有無は、グループ間の注意の違いには影響を与えませんでした。ただし、物を取り除いた条件では、両グループとも顔や体(Face and Body Areas of Interest)への注意が増加し、物がある条件では、両グループともおもちゃ(Toy Area of Interest)への注意を優先する傾向が見られました。
この研究は、物の有無が注 意の向き方に影響を与えることを示し、ASDを持つ子どもへの早期介入環境の設計において、物の配置が社会的注意を促進する重要な要素となる可能性を示唆しています。
Healthcare Providers' Perspectives on Autistic Adolescents Transitioning to Independent Driving
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の青年が独立した運転に移行する際、医療提供者(HCP)がどのような支援や指導を行っているかを調査しました。15名の医療提供者(医師、ソーシャルワーカー、心理学者、セラピスト、看護師)に半構造化インタビューを実施し、内容分析によりテーマを抽出しました。
医療提供者は、ASD青年の強みや課題を個別に評価し、それぞれのニーズに応じたアプローチを用いて運転免許取得や運転スキルについて指導していることが明らかになりました。また、必要に応じて専門家に紹介することや、既存のリソースを活用する一方で、今後のために望まれるリソースのリストも提示されました。
結果として、ASD青年とその家族の運転への移行を支援するために、医療提供者は個別化された指導を行う重要性を認識しており、適切なケースにおいて独立運転を支援するための、より具体的でカスタマイズされたリソースの必要性が指摘されました。この研究は、ASD青年の移 動の自立を支援するための実践的なガイドラインやリソース開発の重要性を強調しています。
College Students Recognize Characteristics of Autism, but Struggle to Differentiate Between Characteristics of Autism and Other Disabilities
この研究は、大学生が自閉症の特徴を正しく診断基準として認識できるか、また他の障害の特徴を自閉症の診断基準と区別できるかを評価しました。また、大学生が自分の自閉症知識に対する確信度(メタ認知的意識)を正確に校正できるかも調査しました。
283名の大学生が「自閉症症状知識評価テスト」を受け、提示された特徴が自閉症の診断基準に該当するかを判断しました。その結果、大学生は自閉症の特徴、特に社会的相互作用やコミュニケーションの課題を自閉症診断に関連づけることに成功しましたが、他の障害(不安症、ADHD、学習障害など)の特徴を自閉症と区別するのに苦労することが分かりました。
また、自閉症の特徴に対しては、回答の正確性が高いほど確信度も高い傾向がありましたが、他の障害の特徴では確信度と正確性が相関しない、あるいは逆相関することが確認されました。つまり、自閉症と他の障害を混同している人は、自分が間違っていることに気づき にくく、修正情報を求めない可能性があることが示唆されました。
この研究は、自閉症と他の障害を区別することの難しさが実社会での誤解や対応の問題につながる可能性を指摘し、知識啓発の必要性を強調しています。
The complex clinical and cognitive phenotype of adult patients with attention deficit hyperactivity disorder (ADHD) and comorbid hoarding disorder
この研究では、成人の注意欠陥・多動性障害(ADHD)患者におけるため込み障害(HD)の併存が、臨床的および認知的特徴にどのような影響を与えるかを調査しました。ADHD患者は、HDを併存している場合、そうでない場合に比べて、衝動性や気分、不安症状がより強く、機能障害も大きいことが示されました。また、注意力や実行機能の障害も顕著であり、より複雑な臨床像を呈していました。この結果は、ADHD患者におけるため込み行動の評価と治療が重要であることを示唆しています。
Frontiers | Unveiling Autism Spectrum Disorder in South East Asia through a Public Health Lens
この論文では、南東アジアにおける自閉症スペクトラム障害(ASD)を公衆衛生の視点から考察しています。ASDは社会的コミュニケーションの困難、限定的な興味、反復的な行動を特徴とする発達障害であり、早期の介入が生活の質を大きく向上させる可能性があります。1980年代の10,000人中4~5人から2012年の1,000人中11.3人へと増加したASDの有病率や、COVID-19パンデミックによる行動問題や不安、スクリーンタイムの増加が課題として挙げられています。診断には「修正版乳児期自閉症チェックリスト(M-CHAT)」や「社会的コミュニケーション質問票(SCQ)」などのツールが重要です。予防戦略として、公衆への啓発活動や遺伝カウンセリングを含む一次予防、早期発見と介入を目的とした二次予防、継続的な支援と治療を提供する三次予防が提案されています。特に低所得国では、地域保健従事者の訓練やASDサービスを初期医療に統合することが必要であると強調されています。
Frontiers | Transcutaneous Auricular Vagus Nerve Stimulation as a Potential Therapy for Attention Deficit Hyperactivity Disorder: Modulation of the Noradrenergic Pathway in the Prefrontal Lobe
この論文では、注意欠陥多動性障害(ADHD)に対する治療法として経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)の可能性を探っています。ADHDは注意力の欠如、多動性、衝動性を特徴とする神経発達障害であり、その発症には前頭前野(PFC)のノルアドレナリン(NE)経路の異常が関与しています。taVNSは非侵襲的な神経調節技術で、近年、神経・精神疾患の治療法として注目されていますが、ADHDへの応用はまだ十分に研究されていません。既存の研究では、taVNSが迷走神経の伝導経路を活性化し、注意力、認知、覚醒、行動調整に効果をもたらすことが示されています。本レビューでは、PFCにおけるNE経路の変化とADHDとの関連、taVNSの作用メカニズム、NE経路がADHD治療におけるtaVNSの効果にどのように寄与するかを包括的に検討しています。これにより、ADHD治療への臨床応用に向けた理論的基盤を提供することを目的としています。
Autistic adults exhibit a typical search advantage for facing dyads
この研究では、自閉症の成人が他者のペア(ダイアド)の視覚的処理において典型的な「対面配置の 優位性」を示すかどうかを調査しました。一般的に、対面したペア(対面ダイアド)は、背中合わせのペア(背面ダイアド)よりも視覚検索で速く見つけられることが知られています。これは、対面ダイアドが観察者の注意をより効果的に引きつけるためだと考えられています。この研究では、自閉症の成人と非自閉症の成人を対象に、対面ダイアドまたは背面ダイアドを背景の中から見つけるオンライン課題を実施しました。
結果、自閉症の参加者は非自閉症の参加者よりもやや時間がかかりましたが、両グループとも対面ダイアドを見つける際に背面ダイアドよりも速く反応しました。このことは、自閉症の成人が他者の配置(対面か背面か)に対する典型的な感受性を持っていることを示唆しています。視覚的な複数人物の処理において、自閉症の人々も非自閉症の人々と同様のパターンを示す可能性があるという初期的な証拠が得られました。
Utilization of early therapeutic supports by autistic preschoolers in Australia: A cross‐sectional study following implementation of the National Disability Insurance Scheme
この研究は、オーストラリアの国家障害保険制度(NDIS) 導入後に自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ就学前児童とその家族がどのように早期療育支援を利用しているかを調査しました。95人の主要な介護者を対象に調査を実施し、そのうち19人にインタビューを行いました。調査結果によれば、家族は通常、2種類以上の支援を利用しており、最も利用されていたのは作業療法、言語療法、心理学的支援でした。また、サンプルの43%が他の支援も利用していました。
多変量線形回帰分析の結果、以下の要因が多様な支援利用に関連していることが示されました:
- 子どもの支援ニーズのレベルが高い
- 遠隔地や経済的に不利な地域でない場所に住んでいる
- 高い世帯収入
支援サービスは主に個別でクリニックベースのモデルで提供され、代替的なサービス提供の利用はほとんど報告されませんでした。この研究は、NDIS導入後に家族が以前より多様な支援を利用していること、そして支援ニーズが高い子どもほど多くの支援を受けていることを示しています。一方で、社会経済的な格差が依然として存在しており、その解消が課題とされています。