ASDの子供の保護者が自宅で試行型機能分析を実施できるようにするトレーニングの効果
この記事では、発達障害や自閉症スペクトラム障害(ASD)に関連する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、ASDの子供の保護者が自宅で試行型機能分析を実施できるようにするトレーニングの効果や、文脈を使って自閉症の成 人がどのように間接的な依頼を解釈するかの研究、バルプロ酸と母体剥奪が自閉症モデルに与える影響の評価、幸福の指標と問題行動との関連性、そしてカタールにおけるASD児童の自己抗体とB細胞機能不全の関連性についての研究が取り上げられています。さらに、ADHDにおけるエピジェネティックな加齢や、ロボットを用いたASD学生の社会的スキル向上に向けた個別プロファイル作成の取り組みも紹介します。
学術研究関連アップデート
Training Parents to Implement Trial-Based Functional Analyses: A Partial Replication and Extension with Elementary-Aged Children with Autism Spectrum Disorder
この論文は、小学生の自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ子供の保護者が、自宅で試行型機能分析(TBFA)を実施できるようにトレーニングする研究を紹介しています。試行型機能分析は、問題行動の評価に効果的であり、これまで教師やグループホームの職員などによって高い手続き的忠実度で実施されてきましたが、保護者が実施者となる研究は少ないです。この研究では、行動スキル訓練(BST)を使用して、ASDの子供を持つ親にTBFA手続きを教え、親が注意、物質、逃避、無干渉の4つの条件を含む分析を実行する能力を評価しました。訓練後、全ての親が高い手続き的忠実度を示し、結果の有効性が確認されました。この研究は、親が自宅で問題行動の評価を効果的に行うためのトレーニング方法の有効性を示しています。
Autistic and non-autistic adults use discourse context to determine a speaker’s intention to request
この研究は、自閉症の成人が文脈を利用して曖昧な発言(例:「喉が渇いた」)を、文字通りの発言として解釈するか、間接的な依頼として解釈するかを調べたものです。研究では、自閉症の成人と神経定型の成人が、文脈を基に発言の意図をどのように解釈するかを比較しました。参加者は、それぞれの発言に対して適切なパラフレーズ(要約)を選択し、その後、心の理論(感情の識別など)と実行機能に関するテストを受けました。結果、感情識別テストのスコアが高い参加者は、発言の意図を正確に解釈する傾向がありましたが、自閉症診断自体は予測に影響を与えませんでした。つまり、自閉症の成人は、神経定型の成人と同様に文脈を使って間接的な依頼を解釈しており、両グループに共通する認知プロセスがあることが示唆されました。
Animal Model of Autism Induced by Valproic Acid Combined with Maternal Deprivation: Sex-Specific Effects on Inflammation and Oxidative Stress
この研究は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因が遺伝的要因と環境的要因の複雑な相互作用によるものであることに着目し、バルプロ酸(VPA)と母体の剥奪(MD)を組み合わせた動物モデルを使用して、行動、酸化ストレス、および炎症の影響を評価しました。妊娠中のラットにVPAを投与し、その子孫にMDを適用して、行動テストと脳および血液の分析を行いました。結果として、VPAのみを投与された若いラットは、対照群に比べて社会的接近行動が低下しましたが、VPAとMDの両方を受けたラットではこの欠損は見られませんでした。酸化ストレスの解析では、メスのラットは全ての脳領域で酸化ストレスが増加し、オスのラットは小脳でのみ酸化ストレスが観察されました。炎症に関しては、オスはMDのみで、メスはVPAのみで炎症性サイトカインが増加しましたが、VPAとMDの両方を受けたラットではサイトカインに変化はありませんでした。結論として、VPAとMDの組み合わせは、性別や脳の部位によって異なる分子メカニズム(酸化ストレスや炎症)に影響を与えることが示唆されました。
Measuring Indices of Happiness and Their Relation to Challenging Behavior
この研究は、発達障害を持つ個人における幸福の指標(幸福/不幸福の指標: IHUs)が、他の行動に影響を与える設定事象を示す可能性があるかどうかを評価したものです。対象は自閉症スペクトラム障害を持つ14歳の少年で、幸福/不幸福の指標と問題行動との関係を調査しました。条件付き確率計算を用いて、IHUs、要求の種類、問題行動の関連性を評価した結果、異なるIHUsが、学業課題や移行に関連する特定の問題行動の予測に役立つことが示されました。この研究は、幸福/不幸福の指標が問題行動に影響を与える可能性を示唆しています。
Dysregulated plasma autoantibodies are associated with B cell dysfunction in young Arab children with autism spectrum disorder in Qatar
この研究は、カタールにおける若いアラブ系の自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ子供たちにおいて、血漿中の自己抗体の異常がB細胞機能不全と関連していることを調査しています。100人のASDの子供と60人の対照群を対象に、高スループットのタンパク質アレイ技術を使用して自己抗体を解析しました。その結果、16種類の自己抗体の異常なタンパク質発現が確認され、ASDの独立したコホートにおける遺伝子発現と相関がありました。また、33種類の自己抗体がASDの重症度と関連し、母親の年齢や出生体重とも関連が見られました。さらに、ASDにおける循環B細胞の数や活性化したB細胞の異常が確認され、これらがいくつかの自己抗体のレベル変化と関連していることが示されました。特に、活性化したナイーブB細胞の頻度が増加し、静止ナイーブB細胞や移行期B細胞がASDの重症度と関連していました。経路解析では、MAPKシグナル伝達経路の乱れがASDに関連していることが示唆され、これは自己抗体とB細胞機能不全に関連する可能性があります。最後に、ASDの重症度を予測する8つの自己抗体の組み合わせが高い診断精度を示しました(ROC-AUC 0.937)。全体として、この研究はASDにおける自己抗体プロファイルの異常とB細胞機能不全を明らかにし、重症度分類に役立つマーカーを特定しました。